従業員の逮捕

更新日アイコン2025年 10月14日 

私生活上の非行行為

従業員が休日に痴漢行為で逮捕された場合、会社は懲戒解雇することは可能なのでしょうか。今回は、痴漢行為に関する懲戒解雇の可否について、私生活上の非行行為の懲戒処分の原則をはじめ、分かりやすく解説します。

私生活上の非行行為で懲戒処分は可能か

私生活上の非行行為とは?
①業務とは無関連、②就業時間外、③企業施設外に行われた非行行為のこと

原則:私生活上の非行行為では懲戒処分はできない

例外:会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような行為の場合
   ①性質や内容・情状
   ②会社の事業の種類・態様・規模
   ③会社の経済界に占める地位、経営方針
   ④その従業員の会社における地位・職種
   上記等の事情から総合的に判断し、客観的に悪影響が認められるもの

私生活上の痴漢行為による懲戒処分

今回は懲戒処分の中でも、諭旨解雇と懲戒解雇について考えていきます。
痴漢行為の場合には裁判所で判例が分かれることが多く、個別的事情を考慮し判断されています。

①痴漢行為の態様・刑罰の内容

 諭旨・懲戒解雇が有効になりやすい要素

  • 不同意わいせつ(旧強制わいせつ)にまで至っている(例えば、下着の中に手を入れる(入れさせる)、衣服の上からでもしつこく触り続ける、押し倒すなどの行為を伴うなど)
  • 迷惑防止条例違反で、懲役刑に処せられている(同種前科があるなど)

 諭旨・懲戒解雇が無効になりやすい要素

  • 迷惑防止条例違反で、少額の罰金刑に留まっている

②前科・前歴の有無、日常の勤務態度

 諭旨・懲戒解雇が有効になりやすい要素

  • 痴漢行為等で前科や前歴がある
  • 同種の痴漢行為で懲戒処分を受けたことがある

 諭旨・懲戒処分が無効になりやすい要素

  • 前科・前歴や懲戒処分歴がない
  • 日ごろの勤務態度が良好である

③その他

 諭旨・懲戒解雇が有効になりやすい要素

  • 管理職など要職についている
  • 就業規則の複数の懲戒規定・服務規程違反である

労務提供できないことを理由とした解雇

上記の通り、痴漢行為で逮捕されたことを理由に懲戒解雇することは難しいと言えます。
しかしながら、逮捕を理由に長期間欠勤となる可能性もあります。そのような場合には、痴漢行為の疑いがあることや逮捕されたこと自体ではなく、それにより「長期間労務提供が行われないこと」を理由とした普通解雇も検討すべきでしょう。

こんな時どうする?

Q1 起訴・不起訴が未確定なまま、従業員が釈放されました。どのように対応すればよいですか?

起訴・不起訴が未確定とはいえ、雇用契約は継続しているため、原則は出勤させることになります。混乱を避けるため、自宅待機を命じることも可能です。但し、調査段階では従業員に責任があると決まったわけではないため、賃金については全額支払うことが妥当でしょう。

Q2 従業員の家族から「逮捕中に出勤ができないため、年次有給休暇を申請したい」と申し込みがありました。受理すべきですか?

年次有給休暇の利用目的については法的に制限を設けることができないため、申請があった場合は原則として認める必要があります。あわせて、休暇取得に際しては必ず本人の意思を確認するとともに、取得手続や運用ルールを明確に定め、従業員に周知しておくことが重要です。

Q3 私生活上の痴漢行為で懲戒処分となった例を教えてください。

小田急電鉄事件では、電車内で女子高校生の臀部をスカートの上から撫でまわしたうえ、右手をそのスカート内に差し入れ、右手指でその左臀部を撫でまわすなどした、従業員の懲戒解雇が有効となっています。


判断要素として、下記が挙げられました。

①決して軽微な犯罪ではない
②職務に伴う倫理規範として痴漢行為を行ってはならない立場
③半年前に同種の痴漢行為で罰金刑に課せられ、昇給停止・降格処分を受け、始末書を提出していたこと

一方、東京メトロ事件では、通勤のため乗車していた電車内で、当時14歳の女性の右臀部付近および左大腿部付近を、着衣の上から左手で触るなどした、従業員の諭旨解雇は無効となっています。

判断要素として、下記が挙げられました。

①悪質性が高いとまでは言えない
②罰金20万円の略式命令にとどまっている
③前科・前歴や懲戒処分が一切なく、勤務態度にも問題がなかった
④起訴・不起訴以外の要素を十分に検討した形跡がうかがわれたこと、起訴の経緯など


従業員の私生活上の行動を取り締まることや
私生活上で行った行為に対して懲戒処分を行うことは非常に難しいと言えます。
日ごろから行動指針の共有など社員教育を行い、会社の看板を背負っていることを自覚してもらうことも大切です。
また、服務規程や懲戒規定の整備や定期的な見直しを行い、予期せぬ事態にも対応ができる体制をととのえましょう。
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