働き方改革を皮切りに、テレワークや副業など、いままででは考えられなかった働き方が生まれてきました。ここ数年で会社も働く側も働き方や価値観が変わっており、賃金制度の改訂の必要性は進んできています。しかし、賃金制度の改定と聞くと敷居が高い印象が強く、書籍やインターネットで調べても言葉が難しく、制度改定に及び腰になってしまう方も多くいらっしゃると思います。
今回は、なるべく普段使いの易しい言葉を使い、はじめて賃金制度改訂に挑戦する方に向けて、賃金制度設計の全体の流れや賃金制度で考えなければならないポイントについて説明していきます。
そもそも、賃金とは労働基準法第11条で「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全て」と定義されていますが、ここでいう「労働の対価」はなぜ発生するのでしょうか?
賃金制度を考える大前提として、会社(使用者)と従業員(労働者)は雇用契約という契約の関係にあることを忘れてはなりません。会社は、担当してもらいたい仕事とその対価を明示し、従業員は、自分が希望する仕事の内容と、希望する賃金の額に近い条件を明示している会社と雇用契約を結んでいます。
当然、会社はより会社に貢献する能力を有している人物を採用したいですし、入社後も、周囲より「良い仕事」をする従業員を手厚く処遇していかなければ貢献に応じた処遇もできませんし、働く意欲を喚起できません。
「賃金は労働の対価」と定義されますが、大前提としてどのような労働に対して、どの程度の対価を支払うのか基準を決めていく必要があり、この基準が賃金制度になります。
賃金制度の改定と聞くと、基本給や手当の金額の見直しに着手しがちでありますが、そのまえに、賃金制度が人事制度全体の中で、どのような位置にあるのか押さえておくことが大切です。
人事制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つがお互いに三すくみの関係で構成されています。
「等級制度」とは、従業員の格付け基準を定めたルール、「評価制度」とは、それぞれの格付けに期待される役割・責任に対して、どの程度の貢献ができたか測定する基準を定めたルール、「報酬制度」とは、格付けや評価の結果を踏まえ、どの程度の賃金と賞与を支払うかの基準を定めたルールになります。
ちなみに、報酬と賃金という2つの単語が出てきますが、報酬は「賃金」と「賞与」を合わせたもの、「賃金」は、雇用契約にもとづき支払われる労働の対価として捉えてください。
前述のとおり、人事制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の三すくみの関係にあると書きましたが、それぞれが別個にルールを定めてしまうと、お互いのルールが矛盾することが発生してしまうかもしれません。そうならないように、会社の人材に対する基本方針や、それぞれの制度の設計思想を定めておく必要があり、この方針を「人材マネジメント方針」といいます。
人材マネジメント方針は、文字どおり「会社の人材に対する処遇の基本方針」になります。方針と言っても「働き甲斐のある会社」というような抽象的なスローガンではなく、「長期雇用を優先する」「日々の研鑽が成果を産み出す」など、会社が何を目指し、具体的に何を大切にし、何を優先するのか分かる粒度感でまとめていきます。
人材マネジメント方針は、会社の方針を受けて定められますので、人材マネジメント方針の設定内容次第で、人事制度の性格は変わってきます。例えば、長期雇用を優先するのであれば、組織の格付けの基準である「等級制度」は年齢や勤続年数順の色彩が強くなるでしょうし、報酬制度も勤続年数を重ねると賃金が上がっていく性格を持つようになります。
次回は、賃金制度の全体像について解説をしていきます。