2025年6月10日

2022年から、企業規模を問わずすべての事業主に対して、パワーハラスメント防止措置の実施が義務づけられています。これを受けて、多くの企業では相談窓口の設置や社内ルールの整備が進められました。
しかし、実際にハラスメント事案が発生していない場合、いざというときにどのように対応すればよいのか分からず、不安を感じている担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、ハラスメントに対する企業の義務や、実際に事案が発生した際の具体的な対応方法について解説します。
職場におけるパワーハラスメントの定義
①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの
これら3つの要素を全て満たすものをパワーハラスメントといいます。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワーハラスメントにはなりません。
①「優越的な関係を背景とした」言動とは
②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは
労働者に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動はパワーハラスメントに該当します。
③「就業環境が害される」とは
| 事業主の方針等の明確化 および周知・啓発 |
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相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
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| パワハラに関する事後の 迅速かつ適切な対応 |
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| 併せて構ずべき措置 |
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1.事実関係の確認
①被害を訴えた従業員へのヒアリングを行う
どのような行為をされたのかを確認する
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hを明確にして、細かく確認する。
複数人で話を聞く、直属の上司や同僚による調査を避けるなどし、客観性を担保しながら行う。ヒアリングを行う場所についても、配慮する。
ヒアリングの目的は事実を確認することであり、対象者の説得や屈服させるような言動は行ってはならない。
②客観的な証拠を集める
メールなどの証拠があれば、提出を求める
証拠がない場合、訴えをした従業員へ内容を整理した書面提出を求めることも有効となる。パワハラの現場を目撃していた他の従業員がいれば、その従業員からもヒアリングを行う。
③加害者とされる従業員へのヒアリングを行う
訴えた従業員の主張だけを鵜呑みにしない
パワハラの加害者という決めつけをせず、淡々と事実を確認する。これまでの調査で集めた客観的資料をもとに、その証拠との結びつきを意識しながら発問する。
加害者とされる従業員からのヒアリングの際にも、プライバシーに配慮する。
2.パワハラの有無を判断
①事実関係の有無を判断する
②調査報告書を作成する
ヒアリングした内容が全て一致するとは限らない
対立する証言内容の信用性は、争いのない事実や客観的証拠、第三者の証言に矛盾点がないかに焦点をあてて検討する。
これまでの事例や自己の経験に基づき判断する場合には、その経験則の妥当性を慎重に確認する。
調査の内容を、認定した事実・争いのない事実・ハラスメントの評価やその根拠などと共に報告書にまとめる。
※誤解であると判断した場合
被害を訴えた従業員・加害者とされた従業員に説明。再発防止措置を講じて対応終了
パワハラの事実が認められず、調査を終了する場合でも報告書を作成する。報告書を当事者に開示する必要はないが、被害を訴えた本人に内容を確認してもらうことで、後のトラブル防止にもつながる。
パワハラを疑われる事案が発生したことは事実なので、従業員向けの研修や啓発文書の周知などを行い、再発防止に努める。
※事実関係があると判断した場合
加害者への処分を実施する
就業規則の定めに則って加害者への処分を実施する。
懲戒処分を行う場合は、就業規則への記載が必要。
被害者へのフォローを実施する
事実関係があると判断された場合、被害者と行為者の関係改善に向けての援助や、お互いを引き離すための配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応等の措置が求められる。
3.再発防止措置の実施
事例をもとに再発防止措置を検討する
解決したら終わりではない
事案が1つ解決しても、再発防止に取り組まなければ同じようなハラスメント事案は発生する。
事例をもとに研修の実施や啓発文書の周知、規則や対応マニュアルの整備を行うことが大切。
Q1 相談窓口は設置しているものの、従業員が少ないために十分に機能しているとは言い難い状況です。何か有効な対策はありますか?
従業員数が少ない職場では、相談内容が特定される不安や、相談による不利益を懸念して声を上げにくい傾向があります。こうした状況を改善するには、匿名での相談手段の導入や相談者を守るルールの整備と周知が重要です。外部相談窓口の活用も有効な対策です。
Q2 ハラスメント事案に長年勤務してきたベテラン従業員が関与していました。これまでの功績や現在の業務上の重要性を踏まえると、処分に踏み切ることに迷いがあります。このような場合、どのように対処すべきでしょうか。
ベテラン従業員であっても、ハラスメント行為には功績や役割に関係なく、公平な対応が必要です。もし処分内容に差が出れば、「実績があれば何をしても許される。」という誤った認識が広がり、職場全体のモラル低下につながります。まずは事実確認を丁寧に行い、就業規則に基づいた段階的な対応を検討しましょう。
Q3 重大なハラスメント事案が発生し、関与した従業員に対して処分を検討しています。しかし、長年就業規則を見直していなかったため、懲戒事由としてハラスメントが明記されていないことが判明しました。このような場合、どのように対応すべきでしょうか?
就業規則にハラスメントが懲戒事由として明記されていない場合でも、職場秩序を乱す行為として処分できる可能性があります。まずは「職場秩序を乱す行為」や「他の従業員に著しい迷惑をかける行為」など、他の懲戒事由に該当しないかを確認しましょう。
ハラスメントに対する企業の義務および一般的な対応方法について解説しました。
法改正を受けて相談窓口を設置したものの「就業規則の見直しが行われていなかった」
あるいは「就業規則の見直し時点では想定されていなかったハラスメントが発生した」といったケースも見受けられます。
こうした事態に備えるためにも、就業規則や社内体制の定期的な見直しと整備が求められます。
「就業規則の見直しをしたい」「このような場合はどう対応すればよいのか」とお悩みの際には
労働法の専門家である社労士にご相談ください。
労働関係法令を根拠に、判断軸やトラブル時の対応方法をアドバイスします。
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