発達障害を理由に解雇は可能か

更新日アイコン2026年01月27日

発達障害を理由に解雇は可能?

近年、「発達障害」という言葉を耳にする機会が増え、「もしかして自分も…?」や「もしかしてあの人も…?」と感じる場面もあるのではないでしょうか。
実際に、遅刻やミスが多い、同僚とのトラブルが多いなどの問題が発生し、「発達障害なのではないか。能力不足などを理由に辞めさせるできるのか」といったご相談をいただくこともあります。

今回は、発達障害に関する基本事項を確認するとともに、職場で上手く付き合うためのポイントについて解説します。併せて、障害を理由に解雇することは可能なのかという疑問にもお答えします。

発達障害とは

発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」をいいます(発達障害者支援法第2条)。

症状は低年齢から現れることが多いものの、成長過程や環境によっては、大人になるまで気づかない場合もあります。

2022年の文部科学省の調査によると、公立小学校の通常学級に在籍する児童の約8.8%に発達障害の可能性があると推定され、厚生労働省の調査では、医師から発達障害と診断された者の数は約87万2千人と推計されています。

また、発達障害の傾向がある人は「約10人に1人」ともいわれており、「日常生活の中で発達障害の傾向がある人と出会ったことがない。」という状況は、まずありえないと考えられます。

発達障害の基礎知識

発達障害は大きく3つに分類されます。それぞれの障害は単体で現れるとは限らず、複数の障害が重なることもあります。また、障害の程度や発達段階、生活環境などによって症状は異なります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
    こだわりの強さ、コミュニケーションの困難さ、対人関係や社会性の障害などが特徴です。

    一方で、決められたルールを守ることが得意であったり、興味のある事柄に対する強い探究心が強みになる場合もあります。
     
    • 幼少期に見られやすい特徴
      • 視線が合わない
      • 表情が乏しい
      • だっこや触れられることを嫌がる
      • 急な予定変更が苦手
      • 食べ物の好き嫌いが多い など

    • 働くうえで課題になりやすい点
      • 予定外の出来事や環境の変化に対してストレスを感じやすく、疲れやすい
      • 場の空気を読むことが苦手で、相手に合わせたコミュニケーションが難しくトラブルになる
      • 曖昧な指示の理解が難しく、すれ違いが発生する など
  • 注意欠如多動症(ADHD)
    注意力の欠如、衝動性の強さ、衝動的な行動などが特徴です。
    一方で、意外性のあるアイディアを出せることや、フットワークの軽さが強みになる場合もあります。


    • 幼少期に見られやすい特徴
      • 集中力・注意力の欠如
      • 遅刻や忘れ物が多い
      • じっとしていることが苦手
      • 話し出すと止まらない
      • 思ったことをそのまま口に出してしまう など

    • 働くうえで課題になりやすい点
      • スケジュールや時間の管理が苦手でダブルブッキングが発生する
      • 思ったことを口にしてしまい、同僚や取引とのトラブルにつながる
      • 集中の持続が苦手な一方、興味のあることにのめり込みすぎて疲労が蓄積する など
  • 限局性学習症(SLD)
    知的な遅れや視覚・聴覚などに問題はないものの、読み書きや数の理解といった特定の分野に学習困難が見られることが特徴です。
    パソコンやボイスレコーダーなどを活用することで、日常生活や業務上の支障が大きく軽減される場合もあります。

    • 幼少期に見られやすい特徴
      • 数を数えることが苦手
      • 繰り上がり・繰り下がりの計算が苦手
      • カタカナが読めない、書けない
      • 何度練習しても鏡文字になる
      • 言葉を聞き間違える など

    • 働くうえで課題になりやすい点
      • 文字を書くのが苦手で、資料を読むのに時間がかかったり、誤読や意味の取り違えが発生する
      • カタカナを読むことが苦手で、業務で使用する専門用語を覚えにくい
      • 文字を書くことが苦手で、会議中や電話対応時にメモを取れない など
ここまで、発達障害の分類と特徴を見てきました。大まかな傾向はあるものの、どのような特性が強く現れるか、また、得意なこと・苦手なことは人によって異なります。
そのため、「障害」として一括りに捉えるのではなく、本人がどのような場面で困り感を抱えているのかに着目することが大切です。

職場で起きるすれ違いの例

ここまで、発達障害の基本について見てきましたが、ここで一度、職場でのコミュニケーションを振り返ってみましょう。

  • Xさん(上司)とYさん(部下)の会話
    Xさん:「例の件、どうなってる?」
    Yさん:「A社の資料作成の件ですね。現在、~まで進んでいて、今週中には仕上がると思います。」

  • Xさん(上司)とZさん(部下)の会話
    Xさん:「例の件、どうなってる?」
    Zさん:「B社の資料の件ですか?」

一見すると、Yさんが優秀で、Zさんが察しの悪い人のように思えるかもしれません。
しかし、もしYさんがXさんから頼まれていたのはA社の資料作成のみで、ZさんはB社を含む複数の取引先に提出する資料を作成するよう指示されていたとしたら、どうでしょうか。

その場合、Yさんにとっての「例の件」はA社の資料作成のことだと明確ですが、Zさんにとっての「例の件」はB社の資料かもしれませんし、その他の資料を指している可能性もあります。

少し極端な例ではありますが、会話のための前提条件を共有しない限り、どうしてもすれ違いが生じてしまいます。
本来であれば、上司であるXさんはZさんに対して
「B社に提出する資料の件なんだけど、どこまでできている?いつ頃仕上がりそう? 困っているところはある?」
といったように、具体的な問いかけをすべきでしょう。

指示の出し方のコツ

発達障害の特性を持つ人の中には、コミュニケーションに困難さを抱えている人も少なくありません。
話の流れをつかむことが苦手だったり、周囲の状況を把握することが難しい場合もあります。
なかなか指示が通らない、会話がかみ合わないといった状況では、前提条件の共有が不足している可能性も考えられます。

接し方を少し工夫するだけで、お互いのストレスを軽減できる場合もあります。
ここでは、今日から実践できるコミュニケーションや指示出しのコツをご紹介します。

  • 指示は簡潔に
    例:「●●を提出してください。期限は〇月〇日です。」
    指示が長くなると、途中で聞き逃す可能性があります。
    一つずつ、相手が理解できているかを確認しながら進めます。

  • 相手のアクションを待たない
    例:「〇日後に打合せしましょう。」
    「わからなかったら聞いて」や「困ったら声をかけて」と言われても、相談が難しい人もいます。
    事前に打ち合わせの日程を決めることで、“実は全く進んでいなかった”という事態を防ぐことができます。

  • 使えるものは何でも使う
    例:文字・イラスト・写真・音声・動画を活用する
    指示が上手く入らない場合、指示の伝え方が相手の特性に合っていない可能性があります。
    人によって、聴覚優位(耳からの情報が得意)・視覚優位(目からの情報が得意)といった差があるため、口頭よりメールのほうが理解しやすい人もいれば、実際にやって見せた方がスムーズに理解できる人もいます。

これらはほんの一例ですが、障害の有無に関わらず、困ったときに役立つ方法でもあります。
誰にでも伝わる指示の出し方を意識するとともに、相手の考え方のクセや得意なことを見つけることも一つの方法です。

障害を理由に解雇は可能か

最後に、冒頭の疑問にお答えします。
障害を理由とした解雇は、法律上認められていません。

労働契約法第16条は「客観的に合理的な理由を欠き、通念上相当でない解雇は無効である」と定められています。
また、障害者差別解消法および労働施策総合推進法においても、障害を理由とする不当な差別的取扱いが禁止されています。
つまり、「障害がある」という事実のみを根拠とした解雇は無効となります。

一方で、実際に長期にわたって業務遂行が著しく困難であったり、業務上重大な支障が生じている場合、または安全配慮義務の観点から継続勤務が難しいと判断される場合には、解雇が有効となる可能性もあります。
ただし、その場合であっても、業務内容の変更や配置転換、勤務時間の調整、適切なコミュニケーション方法の検討など、企業として取り得る対応を十分に試みた上で、それでも業務遂行が困難であったかが重要な判断材料となります。


発達障害は誰にでも身近に存在する可能性があり、その特徴や特性の現れ方は人によってさまざまです。
特性そのものを問題視するのでなく、本人がどのような場面で困りやすいのかを丁寧に理解し、
必要なサポートを検討していくことが重要です。

退職勧奨や解雇という結果になった場合でも、それまでに行われた指導や配慮の実績が判断基準となる可能性があります。

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