2023年4月の労働基準法施行規則の改正により、賃金のデジタル払いが解禁されました。2024年8月に1社目の資金移動業者が厚生労働大臣により指定され、賃金のデジタル払いの運用が可能となり、2025年3月現在3社の資金移動業者が指定されています。
これまでも労働者が同意した場合、預金口座と証券総合口座への振込が認められていましたが、賃金は通貨で支払うことが原則とされています。しかし、昨今キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進み、それらのサービスを活用するニーズも一定数見られることも踏まえ、賃金のデジタル払いが可能になりました。
この記事では賃金支払いの原則と、デジタル払いを実施するために必要なことを解説します。
会社から支給される金銭には「賃金」「給与」「報酬」など様々な名称がありますが、労働基準法で定める賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものを指すと定められています。就業規則などであらかじめ支給条件が明確に定められている賞与や退職金なども賃金に含まれます。
「労働の対償として」「使用者が」労働者に支払うものなので、労働者がお客様から直接もらうチップなどは賃金には当たりません。しかし、同じチップでも、使用者が一旦全てを集めて再分配しているような場合は賃金となります。
賃金は①通貨で、②労働者に直接、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。これを賃金支払いの5原則といい、労働の対償である賃金が確実に労働者の手に渡るよう定められた原則と言えます。
賃金は通貨で支払うことが基本であるため、金融機関への振込や証券口座への振込による支払いはあくまでも例外となります。賃金のデジタル払いはこれらに追加された例外として扱われます。
金融機関への振込によって賃金を支払う際には、労使協定の締結や労働者の同意が必要とされていますが、賃金のデジタル払いに関しても同様に必要な手続きがあります。
賃金のデジタル払いを導入するために必要な手続きは以下の通りです。
1.労使協定の締結
事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、労使協定を締結する必要があります。労使協定には以下の事項を記載します。
このほかに、就業規則や賃金規定の「賃金支払いの方法に関する事項」にデジタル払いによる支払いを追記する必要があります。
2.労働者への説明
労使協定を締結した上で、賃金のデジタル払いを希望する労働者に対して必要事項を説明します。
労働者への説明は指定資金移動業者に委託することが可能です。
3.労働者の個別の同意
労使協定の締結、労働者への説明の後、賃金のデジタル払いを希望する労働者から個別の同意を得る必要があります。以下について労働者からの同意が必要です。
労働者への説明については指定資金移動業者に委託することができますが、労働者の同意については使用者自らが得る必要があります。
強制はできない
デジタル払いは賃金支払い方法の選択肢の一つです。
労使協定を締結したからといって、希望しない労働者に対してデジタル払いを強制することはできません。デジタル払いを導入する場合でも、使用者は労働者に対して、現金または資金移動業者口座以外に銀行口座又は証券総合口座への賃金支払いも併せて提示しなければなりません。
「現金かデジタル払い」の二択や、選択肢を与えつつも実質的に強制している場合は罰則の対象となります。
業務が複雑化する
「一部をデジタル払い、残りを銀行振り込み」のような選択も可能となるため、給与振込の関連業務が増加し、担当者に業務負荷がかかる可能性もあります。システムを導入する場合は、一部払いの登録が可能かどうかもチェックしましょう。
口座には残高上限額がある
資金移動業者が設定している口座残高上限額は100万円となっています。口座残高上限を超えた際には、あらかじめ労働者が指定した銀行口座などに自動的に出金されます。
また、口座残高上限とは別に各事業者が受入上限額を設定しており、受入上限額を超えた場合もあらかじめ設定された銀行口座などに送金されます。
資金移動業者口座の資金は預金とは異なり、送金や決済等を目的としたものです。そのため、口座残高の上限や受入れ上限額が設定されています。銀行口座とは異なる点を従業員に説明することも必要です。
デジタル払いを行う場合でも銀行等の口座は必要
賃金のデジタル払いについて、労働者の同意を得る際には代替口座の指定が必要です。代替口座は残高上限・受入上限を超えた場合や、指定資金移動業者の破綻時に保証機関から弁済を受ける際に使用します。
従業員の個別の同意内容に含まれているため、銀行口座や証券総合口座を持たない労働者に対してデジタル払いを行うことはできません。
賃金のデジタル払いをするにあたって必要な手続きについて解説しました。
今後指定資金移動業者の増加によって、従業員から導入の希望が増えることも考えられます。
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