メンタル不調の従業員対応

更新日アイコン2025年9月9日

メンタル不調の従業員対応(休職)

近年、メンタルヘルス不調による休職者が増加しており、多くの企業が私傷病休職制度を整備しています。

ただ、制度があっても運用面では課題が多く、復職後に業務が困難となるケースや、休職期間満了後に退職となるケースも見られます。

「医師の診断書がある場合、会社は必ず休職を認めなければならないのか」そんな疑問を持つ方も少なくありません。

本記事では、企業としての対応の考え方のポイントを解説します。

そもそも休職とは

「休職」とは、従業員が病気やケガなどの理由で一定期間働けなくなった場合に、企業との雇用関係を維持したまま、仕事を休むことができる制度です。
特に「私傷病休職制度」は、企業が独自に定めるもので、法律で義務づけられているわけではありません。言い換えれば、会社が従業員の長期的な就業を支えるために設けた“恩恵的な制度”といえます。

この制度の背景には、「30年〜40年という長いキャリアの中で、1年や2年働けない時期があったとしても、それだけで退職に至るのは、会社にとっても本人にとっても大きな損失である」という考え方があります。企業としても、経験やスキルを持った人材を簡単に手放すことは避けたいですし、従業員にとっても、治療や回復の時間を確保しながら職場に戻れる安心感は大きな支えになります。

ただし、休職制度を利用する際には、休職期間中に回復する見込みがあり、休職満了時に原職に復帰できることが前提となります。これは制度の趣旨からも明らかであり、単に「働けないから休む」というだけではなく、「回復して元の仕事に戻る」という意志と見通しがあることが重要です。

そのため、会社としては、医師の診断書の内容や本人の状況を踏まえながら、制度の趣旨に沿った対応を検討する必要があります。

メンタル不調とは

職場でのメンタル不調と一口に言っても、その背景や症状はさまざまです。ここでは、近年特に増加傾向にある代表的な疾患について整理します。

うつ病の特徴

うつ病は、気分の落ち込みが長期間続き、日常生活に支障をきたす精神疾患です。
主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 抑うつ気分(ほとんど毎日、一日中続く)
  • 興味や喜びの喪失
  • 自己評価の低下、罪悪感
  • 睡眠障害、食欲不振
  • 疲労感、集中力の低下
  • 希死念慮(死にたい気持ち)

うつ病は、明確なストレス要因がなくても発症することがあり、環境が改善されても症状が続くのが特徴です。治療は、薬物療法や精神療法が中心となります。

適応障害の特徴

適応障害は、特定のストレス(職場の人間関係、異動、家庭の問題など)にうまく対応できず、心身に不調をきたす状態です。主な症状は以下の通りです。

  • 不安感、抑うつ気分
  • イライラ、涙もろさ
  • 睡眠障害、頭痛、胃腸症状
  • 遅刻・欠勤、対人回避

ストレス源が明確であり、それを取り除くことで比較的早期に改善する傾向があります。環境調整(部署異動など)が治療の中心となることも多いです。

うつ病と適応障害の違い

両者は症状が似ているため混同されがちですが、以下のような違いがあります。

項目 うつ病 適応障害
原因 原因が不明な場合もある 明確なストレス要因がある
症状 ストレスの有無に関係なく持続 ストレス状況下で強く出る
持続期間 数週間〜数ヶ月以上持続 原因解消で比較的早期に改善
興味・関心 ほぼ完全に失われる 楽しめることもある
治療法 薬物療法・精神療法が中心 環境調整が中心

適応障害が長期化すると、うつ病に移行するリスクもあるため、早期の対応が重要となります。

発達障害の二次障害としてのメンタル不調

最近では、発達障害(ASDやADHDなど)の特性を持つ方が、職場の環境や人間関係に適応できず、二次的にうつ病や適応障害を発症するケースも増えています。

発達障害の特性(こだわりの強さ、対人関係の苦手さ、感覚過敏など)が職場でのストレス要因となり、結果としてメンタル不調を引き起こすことがあります。本人が発達障害やその特性に気づいていないことや、障害に対する配慮が得られないことが原因となる場合もあります。

このような場合、単なる「うつ病」や「適応障害」として対応するだけでは不十分であり、発達特性への理解と支援が不可欠です。

休職対応の大まかな流れ

休職対応は、従業員の状況に応じて柔軟に進める必要がありますが、基本的な流れは以下のように整理できます。

■ ステップ①:医師の診断書の提出

従業員がメンタル不調を訴えた場合、まずは医療機関を受診し、診断書を取得するケースが一般的です。診断書には「就労困難」「一定期間の休養が必要」などの記載があり、これをもとに会社が休職の可否を判断します。

※診断書が提出されたからといって、必ずしも無条件で休職を認めなければならないわけではありません。会社の就業規則や制度の趣旨に照らして、判断する必要があります。

■ ステップ②:休職開始と社内手続き

休職が認められた場合、社内での手続き(休職届の提出、就業規則に基づく通知など)を行い、正式に休職が開始されます。休職期間中は、原則として業務から完全に離れ、治療と回復に専念することになります。

企業によっては、定期的な連絡や面談を通じて、従業員の状況を把握する体制を整えているところもあります。雇用関係は継続しているため、会社側から連絡することに問題はありません。

■ ステップ③:復職判断と準備

休職期間の終盤には、復職の可否を判断することが必要です。ここでは以下のような要素が重要になります。

  • 主治医の復職可否に関する診断書
  • 産業医の意見(必要に応じて)
  • 本人の意思と職場環境の受け入れ体制
  • 業務内容や勤務時間の調整の可能性
復職にあたっては、段階的な勤務(短時間勤務、リハビリ出勤など)を取り入れることで、再発リスクを軽減することができますが、原則として「勤務再開時点で、契約に則った債務の履行ができること」が復職の条件となります。

■ ステップ④:復職後のフォローアップ

復職後は、定期的な面談や業務内容の調整を通じて、従業員の状態を継続的に確認することが必要になります。特にメンタル不調の場合は再発のリスクもあるため、周囲の理解と支援が不可欠です。

また、復職後に再び不調の兆候が見られる際には、再休職や配置転換なども含めて検討することになります。

復職後のフォローアップは重要な取り組みですが、企業側に過度な負担がかかるような対応まで求められているわけではありません。支援する側の従業員が疲弊しないよう、無理のない範囲での配慮もあわせて考えていくことが必要です。

こんなときどうする?

Q1 休みがちだった従業員が、休職を希望しています。適応障害との診断ですが、どのように対応すればよいですか?

適応障害は、特定のストレス要因がはっきりしていることが特徴です。

まずは面談を通じて、本人が感じている負担や背景を丁寧に確認しましょう。そのうえで、本人の希望や職場の状況を踏まえ、配置転換や休職などの対応を検討していくことが大切です。

Q2 ミスや対人関係のトラブルが目立つ従業員に指導を行ったところ、適応障害の診断書が提出されました。どのように対応すればよいですか?

まず産業医や、就業規則などで定められた会社指定の医師による診断を指示することが考えられます。

背景に発達障害などのがある可能性もありますが、本人に直接その疑いを伝えることは慎重に対応する必要があります。
必要に応じて、本人の同意を得たうえで、専門的な視点から確認を進めることが大切です。

また、誤解やトラブルを防ぐためにも、業務上のミスや対人関係の課題、指導の内容については、日頃から記録を残しておくことが望ましいでしょう。

Q3 休職中の従業員から、有給休暇を全て消化して退職したいと申し出がありました。どのように対応すればよいですか?

休職制度は、会社が任意で設けるもので、一定期間、労働の義務を免除する制度です。労働の義務がない期間には、有給休暇を取得することはできません。
そもそも休職は会社の恩恵的な制度であり、まずは有給休暇や欠勤を利用して様子を見るのが自然な流れです。それでも勤務の継続が難しい場合に、休職制度を利用するという順序が望ましいといえます。

なお、退職時に有給休暇の消化を希望された場合でも、休職中であれば取得できないため、会社として認めないという対応も可能です。


メンタル不調による休職は、ケガなどによる休職に比べ、慎重な対応が求められます。

制度の整備と運用ルールの明確化はもちろん、個々の状況に応じた柔軟な対応も必要になります。
ただし、必要以上に踏み込みすぎることなく、適切な距離感を保つことも、企業としての健全な対応につながります。

制度の見直しや従業員の休職対応に関してお悩みの際には、労働法の専門家である社労士にご相談ください。

 


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