遅刻を繰り返す従業員への対応策

更新日アイコン2025年1月28日

勤怠控除と減給制裁

企業において、従業員の遅刻に対する適切な対応は重要な課題です。遅刻が頻発すると、業務の効率や職場の士気に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な対応策を講じることで、健全な職場環境を維持し、従業員の意識を向上させることが可能です。

本記事では、遅刻への対応策の根拠となる「ノーワーク・ノーペイの原則」と「減給の制裁」について解説します。

ノーワーク・ノーペイの原則とは

ノーワーク・ノーペイの原則とは、労働していない時間に対しては給与を支払う必要がないという考え方を指します。

この原則に基づき、遅刻や早退した時間分を給与から差し引くことを遅刻・早退控除と呼び、欠勤控除と合わせて勤怠控除と称されることもあります。

遅刻・早退控除の場合、月の給与額から1時間あたりの単価を算出し、遅刻や早退した時間数を乗じて計算することが基本となります。

給与を支払う必要がないのは「労働していない時間」に限られるため、5分の遅刻を15分に切り上げて計算する運用は違法です。ただし、就業規則に減給の制裁に関する規定がある場合は、制裁として認められることがあります。

減給の制裁とは

減給の制裁とは、懲戒処分の一環として、従業員の本来の賃金から一定額を控除することを指します。これは遅刻に限らず、職場における規律違反や不正行為も対象となります。

減給の制裁を就業規則で定める場合、その減給額は一回につき平均賃金の一日の半額を超えず、総額が一支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならないと労働基準法第91条において規定されています。

就業規則に明記されていない場合には制裁としての減給は実施できませんので、減給の事由(遅刻や無断欠勤など)を就業規則に明記する必要があります。

減給の制裁を行う際には、一回の減給額は平均賃金の半額以下である必要があるため、平均賃金が一日当たり1万円(月給30万円)の従業員の場合、5千円が一回の減給の限度額となります。さらに、一支払期における賃金の総額の十分の一という上限があるため、一か月の上限は3万円となります。これは一度に支払う賃金の総額を基に計算するため、欠勤などで賃金の総額が減少した場合でも、その減少した額を基に計算する必要があります。ただし、「一支払期における」とあるため、翌月以降に繰り越して減額することは可能です。

遅刻・早退控除と減給の制裁は別物

遅刻・早退控除や欠勤控除は、労働していない時間の給与を差し引くものであり、懲罰的な意味合いはありません。

一方で、減給の制裁は懲戒処分に該当します。繰り返し注意をしても遅刻を続ける場合には、適切な手続きを経て処分を行います。

遅刻・早退控除などの勤怠控除は、労働基準法に明記されているものではないため、控除の対象となる事由や控除額の計算方法を就業規則に明確に定めておく必要があります。

こんなときどうする?

Q1 遅刻3回で欠勤扱いにしています。どのような問題がありますか?

例えば、1時間の遅刻を3回した際に減額できる賃金は3時間分です。所定労働時間が8時間であれば5時間分の不払いが発生することになり、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)の違反となります。

遅刻に対する制裁を就業規則に明記し、懲戒処分として減給することは可能ですが、その場合にも遅刻3回で欠勤と一律に決めてしまうと個々の事情を無視した運用となりかねず、違反行為に対して処分が重すぎると判断される恐れがあります。

 

Q2 遅刻した時間と別の日の残業時間を相殺することはできますか?

遅刻控除を行わずに別日の残業時間と遅刻を相殺することはできません。

遅刻は、時間当たりの単価をもとに控除額を計算しますが、残業(時間外労働)には法定の割増賃金を上乗せするため、時間数は同じでも支払う金額が異なります。そのため、遅刻した時間と残業時間を相殺してしまうと残業代の未払いが発生します。遅刻や早退と時間外労働は明確に分けて計算する必要があります。

別日の残業時間と相殺することはできませんが、同日内かつ法定労働時間内であれば相殺は可能です。

例えば、9時から18時までの勤務(休憩1時間)の従業員が30分遅刻した場合、18時30分までは通常の勤務として計算することができます。

相殺するというよりは始業時刻の変更というイメージになりますが、これを許してしまうと「遅刻してもその分残ればいい。」と考える従業員が出てくる恐れがあるため、何かしらの制限は必要だと思われます。

 

Q3 遅刻した時間と休憩時間を相殺することはできますか?

原則として認められません。

休憩は法律上の義務であり、使用者が労働者に必ず与えなければいけないものです。労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければいけないと規定されています。

例えばQ2の従業員の場合、45分の休憩が確保できれば15分の遅刻と休憩時間を相殺することは可能ですが、一日の労働時間が8時間を超えてしまう場合、残業の開始前に15分の休憩を与えなければならず、労働時間の管理も煩雑になるため、相殺は避けるのが望ましいでしょう。

 

Q4 遅刻を繰り返す従業員にペナルティを科したいのですが、注意点はありますか?

遅刻を理由に懲戒処分をすることも可能ですが、いきなり処分をすることはできません。

まずは現場での注意や指導・面談を行い、それでも改善されない場合に懲戒処分を検討することになります。懲戒処分は就業規則に従って手続きを進めます。

指導や面談の際には必ず記録を残します。記録を残す際には、会社から従業員に伝えたこと・従業員から聞いた事実・今後の進め方や改善の目標などを書面にし、署名してもらうことがトラブル防止に役立ちます。


従業員の遅刻に対して、多くの企業は遅刻控除で対応していますが、場合によっては更なる処分が必要になることもあります。

制裁の定めをする場合は、あらかじめ就業規則で懲戒の種類・程度と懲戒事由を定めておくことが必要です。

就業規則の見直しや懲戒処分の進め方など、悩んだ時には、労働関係法令の専門家である社労士がサポートします。

 


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