年次有給休暇の基本

更新日アイコン2025年4月8日

年次有給休暇の基本

年次有給休暇は、従業員が給与を受け取りながら休暇を取る権利であり、従業員の健康とワークライフバランスを保つために重要です。労働基準法では、一定の条件を満たす従業員に対して有給休暇の付与が義務付けられています。有給休暇の取得は、従業員のストレス軽減やモチベーション向上に寄与し、結果として企業の生産性向上にもつながります。この記事では、年次有給休暇の基本について解説するとともに、休暇取得時の賃金の計算方法やよくある質問にもお答えします。

年次有給休暇とは(出勤率の計算)

労働基準法第39条において「使用者は、その雇い入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。」と規定されています。

要件は6ヵ月間の継続勤務と全労働日の8割以上の出勤なので、出勤率が80%以上であれば雇用形態に関わらず従業員に年次有給休暇を付与しなければなりません。

出勤率は以下のように計算します。

出勤率=(実際の出勤日+出勤したとみなす休業日)÷全労働日

継続勤務

継続勤務とは、在籍期間のことを言います。パート社員から正社員に切り替えた場合や、定年退職による退職者を引き続き雇用しているような場合でも、実質的に労働関係が継続していれば勤務期間を通算します。休職期間や長期の病欠期間なども雇用契約は継続しているため、通算する必要があります。

紹介派遣などによって派遣労働者を直接雇用した場合は、派遣元との雇用契約から自社との雇用契約に切り替わるため、通算する必要はありません。

全労働日

全労働日とは、雇い入れの日から6ヵ月間(次年度以降は1年間)の総歴日数から、会社の所定休日を除いた日となります。

所定休日とは、就業規則等で定められている休日のことを指します。

所定休日以外に、不可抗力による休業日・使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日・正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くされなかった日・代替休暇を取得し、終日出勤しなかった日などがあればその日も除きます。

出勤したとみなす休業日

労働日のうち出勤した日(休日出勤は含まない)と、下記①から⑥までは出勤したものとみなして出勤率を計算します。

①業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業した日

②育児休業期間

③介護休業期間

④産前産後の休業期間

⑤年次有給休暇取得日

⑥労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日で、全労働日から除くものに該当しないもの

法律で出勤率の算定上の取り扱いが定められていない休業日

生理休暇や子の看護等休暇・介護休暇、特別休暇などは、法令等によって出勤率算定上の取り扱いが定められていません。そのため、全労働日・出勤日数に含めるか、除外するかを会社ごとに定める必要があります。

年次有給休暇の法定付与日数

勤続年数 6ヵ月 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

年次有給休暇の付与日数は法律で決められているため、基準を下回ることはできません。法定以上の日数を付与することは可能です。

1週間の所定労働時間が30時間未満で、下記①又は②に該当する労働者は比例付与の対象となります。

①1週間の所定労働日数が4日以下の労働者

②週以外の期間によって所定労働日数が定められている労働者で、1年間の所定労働日数が216日以下の労働者

所定労働日数 勤続年数
1年間 6ヵ月 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年
4日 169~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

※週の所定労働時間が30時間以上の場合や、1日の所定労働時間が短くても週5日勤務している労働者は比例付与の対象になりません。

年次有給休暇取得時の賃金の計算方法

年次有給休暇中の賃金の計算方法は3つあります。

1.通常の勤務と同じ賃金を支払う

所定労働時間労働した場合に払われる通常の賃金を支払います。1日の所定労働時間が一定の場合、有給休暇の取得によって支給額が変動しないため、計算が容易になります。

2.平均賃金を支払う

過去3か月間における1日当たりの賃金を計算して支払います。この場合、有給休暇の取得時に平均賃金を算出する必要があります。アルバイト従業員など1日の労働時間が一定でない場合に利用することが多い計算方法です。
なお、平均賃金を用いて計算する場合は①と②を比較して高いほうを支払います。

①過去3か月間の賃金の合計÷過去3か月間の歴日数

②過去3か月間の賃金の合計÷過去3か月間の労働日数×0.6

3.健康保険法の標準報酬日額を支払う

健康保険料の基礎となる標準報酬月額を30で割った金額を支払います。この計算方法を用いる場合は労使協定の締結が必要です。

有給休暇に関することは就業規則への記載が必要

就業規則には必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、定めをする場合に記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。絶対的必要記載事項には休暇に関することが含まれるので、法定休暇である年次有給休暇についても必ず記載しなければなりません。

有給休暇付与の条件や付与日数、時季変更権・時季指定権に関する事項などを記載するのが一般的です。休暇取得時の賃金計算の方法についても記載しておく必要があります。

こんなときどうする?

Q1 遅刻や早退が多い従業員にも法定通り有給休暇を付与しなければいけませんか?

遅刻や早退をした日も出勤日には含まれるため、出勤率が8割を満たしている場合には、有給休暇を付与する必要があります。

Q2 パートさんの入社時に1週間の所定労働日数を定めなかった場合、付与日数はどのようになりますか?

所定労働日数が定められていない場合、勤務実績に応じて比例付与の対象となります。
最初の6か月間の勤務日数の合計が24日以上であれば、勤務日数を2倍にして付与日数を算出します。例えば入社から半年間の勤務日数が40日だった場合、1年に換算すると80日になるので比例付与の対象になるので、3日の有給休暇を付与します。

Q3 従業員から有給休暇を買い取ってほしいと言われています。買い取らなければいけませんか?

在職中の有給休暇の買い取りは認められていません。
例外として、時効消滅したものと退職時の未消化分は買い取りが認められますが、従業員から求められたからと言って必ず買い取らなければいけないものではありません。また、買い取る際にも通常の有給休暇取得時の賃金を支払わなければならないわけではありません。

Q4 比例付与の対象となるパートさんをフルタイム勤務にした場合、有給休暇の付与日数はどうなりますか?

有給休暇の付与日数は、休暇が発生する時点での労働条件によって決まります。例えば、入社から3か月後にフルタイムでの勤務に変更、その後も継続勤務し、雇い入れの日から6か月間の出勤率を満たしていれば10日の有給休暇を付与する必要があります。


年次有給休暇の基本について解説しました。

身近な休暇ですが、「就業規則にどこまで記載すればいいのかわからない」
「計画年休や半日単位の取得にはどのように対応すればいいの?」
など、わかりにくい部分が多い制度でもあります。

年次有給休暇の取り扱いにお困りの際には、労働関係法令の専門家である社労士にご相談ください。

 


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