2025年4月22日

事業主は、要件を満たした労働者の介護休業・介護休暇の申出を拒否できないとされています。
しかし、これまで「常時介護を必要とする状態」の判断基準は、主に高齢者介護を念頭に作成されていました。そのため、子に障害のある場合や医療的ケアを必要とする場合には解釈が難しいケースも多くあり、子に障害のある場合や医療的ケアを必要とする場合にも、適切に介護休業制度が利用できるよう、判断基準の見直しが行われました。
この記事では、介護休業制度の概要と新たな判断基準について解説します。
介護休業とは、負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するためにする休業をいいます。
介護休業は労働者の申出を要件としており、対象家族1人につき93日、最大3回まで分割して取得することができます。
対象家族の範囲
介護休業をすることができる労働者
常時介護を必要とする状態については、以下の表を参照しながら判断します。ただし、この基準に厳密に従うことにとらわれて労働者の介護休業の取得が制限されてしまわないように、介護をしている労働者の個々の事情にあわせて、なるべく労働者が仕事と介護を両立できるよう、事業主は柔軟に運用することが望まれます。
常時介護を必要とする状態にあるものには、障害児・者や医ケア児・者を介護・支援する場合を含みます。ただし、乳幼児の通常の成育過程において日常生活上必要な便宜を供与する必要がある場合は含みません。
「常時介護を必要とする状態」とは、以下の(1)または(2)のいずれかに該当する場合であること。
(1)項目①~⑫のうち、状態について2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること
(2)介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること
| 項目/状態 | 1 | 2 | 3 |
| ①座位保持(10分間一人で座っていることができる) | 自分で可 | 支えてもらえればできる | できない |
| ②歩行(立ち止まらず、座り込まずに5m程度歩くことができる) | つかまらないでできる | 何かにつかまればできる | できない |
| ③移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間を移るなどの乗り移りの動作) | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
| ④水分・食事摂取 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
| ⑤排泄 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
| ⑥衣類の着脱 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
| ⑦意思の伝達 | できる | ときどきできない | できない |
| ⑧外出すると戻れないことや、危険回避ができないことがある | ない | ときどきある | ほとんど毎回ある |
| ⑨物を壊したり衣類を破くことがある | ない | ときどきある | ほとんど毎日ある |
| ⑩周囲の者が何らかの対応をとらなければいけないほどの物忘れがあるなど日常生活に支障を来すほどの認知・行動上の課題がある | ない | ときどきある | ほとんど毎日ある |
| ⑪医薬品又は医療機器の使用・管理 | 自分で可 | 一部介助、見守り等が必要 | 全面的介助が必要 |
| ⑫日常の意思決定 | できる | 本人に関する重要な意思決定はできない | ほとんどできない |
赤で示した部分が今回の見直しによって、表現が変更された部分となります。
これまでの「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」では、子に障害のある場合や医療的ケアを必要とする場合に解釈が難しく、見直しにあたっては障害児通所支援の要否の決定の際に勘案される「5領域20項目」の調査項目の中で、仕事と介護を両立する観点から、要介護者が日中一人になった場合に危険度が高いと思われる要素を考慮しつつ、代表的かつ労働者にとって比較的わかりやすいと考えられる項目を抽出したとされています。そのため、児童発達支援や放課後等デイサービスを利用する際の判断基準となる5領域の中の「健康・生活」、「認知・行動」に対応する部分が多くあります。
Q1 発達障害のあるお子さんのために介護休業をしたいと相談されました。対象家族が要介護状態にあるかどうかはどのように確認すればよいですか?
従業員から介護休業等の申出を受けた場合、対象家族が要介護状態にあることを証明する書類の提出を求めることができますが、証明書の提出を制度利用の条件とすることはできませんのでご注意ください。
証明書類は医師の診断書に限られないため、障害支援区分認定通知書、障害児通所給付費支給決定通知書等を利用して確認することができます。
Q2 お子さんが不登校になってしまったため、介護休業を取得したいと相談されました。不登校の場合でも対象になりますか?
不登校の状態の対象家族についても判断基準に照らして判断すべきものと考えられます。学校に行くことができないというだけでは介護休業の取得は難しいかもしれませんが、判断基準の⑨「ものを壊したり衣類を破くことがある」の状態3「ほとんど毎日ある」には、「自分や他人を傷つけることがときどきある」状態も含まれるため、自傷行為や他害行為の状況によっては介護休業の対象となる場合があります。
判断基準が5領域20項目を反映しているため、この場合の自傷行為は一般的にイメージされるものとは少し異なるものと考えられます。
自傷行為や他害行為が度々起きていたり、頻繁にパニックを起こすような状態であれば、介護休業等の利用を検討するとともに、専門家への相談を促し、従業員とその家族が適切な支援を受けられるよう情報を提供する必要があると考えられます。また、介護休業に限らず通常の休職制度の利用を提案することもご検討ください。
Q3 障害のある子を育てる従業員にも、辞めずに働いてほしいと考えています。会社として何かできることはありますか?
まずは、従業員にどのような配慮が必要か確認したうえで、会社としてどこまで配慮できるかを相談しましょう。
障害のある子を育てながら働く場合に直面する課題としては、一般的に以下のようなものがあります。
お子さんに障害がある場合、預け先の問題や送迎などの課題、支援施設の利用を継続するための面談・園や学校で起きたトラブルに対応するための時間の捻出など、フルタイムでの就業を続けることが難しくなることもあります。そのため、育児・介護休業制度や両立支援制度、短時間勤務制度の延長などを活用し、家庭の状況に応じて柔軟に対応することが雇用継続の鍵となります。
社内で制度化を検討する際には、福祉サービスの具体的内容を踏まえた制度設計を行うことで、より有効な支援が可能となります。
介護休業法の「常時介護を必要とする状態」の見直しについて解説しました。
これまで高齢者を介護するための制度ととらえられ、医療的ケアが必要な子や発達障害のある子については判断が難しく、
実際には利用できるのに対象外とされていた事例も多くありました。
判断基準が明確になったことで、対象にならないと考えていた労働者からの介護休業の申出の増加が予想されます。
また、今年の育児・介護休業法の改正も、仕事との両立に重点を置いたものとなっているため、
今後もこの流れは続くものと考えられます。
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