変形労働時間とフレックス②

更新日アイコン2025年 8月12日 

変形労働時間制とフレックスタイム制

前回の記事では、1か月単位の変形労働時間制について紹介しました。
2回目の今回は「1年単位の変形労働時間制」と「1週間単位の変形労働時間制」について解説します。
1年単位の変形労働時間制では、労働日数や労働時間に厳格な上限が設けられています。一方、1週間単位の変形労働時間制は労働者に与える影響が大きいことから、導入できる企業に制限があります。

①1年単位の変形労働時間制

使用者は、1か月以上1年以内の一定期間を平均して、1週間の平均労働時間が40時間を超えない限り、特定の日や週は労働者を法定労働時間を超えて労働させることが可能です。
1か月以内の変形労働時間制と同様に、事前に変形期間中の各日・各週の労働時間(始業時刻と終業時刻)を特定し、適用労働者に提示することが必要です。
また、1年以内の変形労働時間制には、
連続勤続日数等に上限が定められています。

なお、1か月単位の変形労働時間制とは異なり、特例事業においても、週平均労働時間は40時間以内となります。

  • 導入が向いている会社
    年間を通じて繁忙期と閑散期がある会社
    →大型プロジェクトのみを扱うコンサルタント会社やアイスクリームをメインに生産する食品メーカーなど

  • 休日
    1週1日

  • 労働日数の上限(労働基準法施行規則12の4③)
    対象期間中の1週間の平均労働時間が40時間を超えない場合でも下記日数以上は労働させることができません。

    • 対象期間が3か月以内の場合:週休制の原則通り
    • 対象期間が3か月を超え1年以内の場合:原則として280日×対象期間の暦日数÷365(端数切捨て)
    • 対象期間が1年の場合:280日

  • 労働時間の上限(労働基準法施行規則12の4④)
    対象期間中の1週間の平均が40時間を超えない場合でも下記労働時間以上は労働させることができません。

    •  対象期間が3か月以内の場合:1日10時間以内/1週52時間以内
    •  対象期間が3か月を超える場合:
       1日10時間以内/1週52時間以内、
        ①週48時間を超える所定労働時間は連続3週間以下
         かつ
        ②対象期間の初日から3か月ごとの各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定する週は3回以下
        例えば対象期間が4月1日~翌年3月31日の1年の場合では、4~6月の間で4月に週48時間を超える
        所定労働時間を3回設定した際には5月6月は週48時間を超える所定労働時間を設定できません。

  • 連続勤続日数(労働基準法施行規則12の4⑤)
    対象期間での1週間の平均が40時間を超えない場合でも下記日数以上連続で労働させることはできません。

    • 原則:最長6日
    • 特定期間:最長12日(1週間に1日の休日が確保できる日数)
      ※特定期間とは対象期間のうち、特に業務が繁忙な期間として定めた期間をいいます。

  • 労働時間の計算方法
    • 対象期間における所定労働時間の総枠=40時間×対象期間の日数÷7日
    • 週平均労働時間=対象期間における労働時間÷対象期間の日数×7日

      例)対象期間1年(365日)で4~6月が繁忙期の会社の場合
    • 対象期間における所定労働時間の総枠=40時間×365日÷7=2085.17時間
    • 週平均労働時間=1977.5時間÷365×7=37.92時間

      表の場合は、上限以内のため適法です。
      ①年間労働日244日(上限280日以内)
      ②1日の労働時間最長9.5時間(上限10時間以内)
      ③月所定労働時間1977.5時間(上限2085.17時間以内)
月所定労働日数
(上限は280日)
1日の所定労働時間
(上限は10時間)
月所定労働時間
(上限は2085.17時間)
1月 19日 7.5時間 142.5時間
2月 20日 7.5時間 150時間
3月 22日 8時間 176時間
4月 21日 9.5時間 199.5時間
5月 22日 9.5時間 209時間
6月 20日 9.5時間 190時間
7月 21日 8時間 168時間
8月 21日 7.5時間 157.5時間
9月 20日 7.5時間 150時間
10月 20日 7.5時間 150時間
11月 19日 7.5時間 142.5時間
12月 19日 7.5時間 142.5時間
年間合計 244日   1977.5時間

 

②1週間単位の変形労働時間制

1週間の合計労働時間が40時間以内の場合、特定の日は法定労働時間を超えて労働させることが可能です。
しかしながら、導入できる会社は限られています。また、事前に1週間の各日の労働時間を労働者に通知しなければなりません。

なお、特例事業においても、1週間の合計労働時間は40時間以内となります。

  • 導入が可能な会社:常時使用する労働者が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店

  • 休日1週1日または4週4休

  • 労働時間の上限:1日10時間以内/1週間40時間以内

こんな時どうする?

Q1 1年単位の変形労働時間制と1週間単位の変形労働時間制を導入する場合、
どのような時に割増賃金の支払いが必要ですか?

1年単位の変形労働時間制の場合で、割増賃金の支払いが必要なのは、下記です。
1週間単位の変形労働時間制の場合も同様ですが、期間内の労働時間が1週間のため必然的に2段階のみとなります。

  1. 1日の労働時間:あらかじめ8時間を超える労働時間を定めていた日は、その労働時間を超えた場合、8時間未満を定めていた日は8時間を超えた場合
  2. 1週間の労働時間:あらかじめ40時間を越える労働時間を定めていた週は、その労働時間を超えた場合(ただし1日の労働時間で時間外労働とみなされた場合を除く)、40時間未満を定めていた週は40時間を超えた場合
  3. 期間内の労働時間:期間全体において法定労働時間の総枠を超えた場合

Q2 1年単位の変形労働時間制を採用しており、繁忙期に週平均40時間を超えていた週がありました。
しかし1年間(365日)の労働時間は2,000時間で法定時間内でした。割増賃金の支払いが必要ですか?

まずは、1日の予定していた所定労働時間を超えているか、その労働時間が8時間を越えているかを確認します。
1日の労働時間が、8時間以上で予定していた所定労働時間を超えた場合には、割増賃金の支払いが必要です。
次に1週間の予定していた所定労働時間を超えているか、その労働時間が40時間を越えているか確認します。
1週間の労働時間が、40時間以上で予定していた所定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いが必要です。
但し、1日の労働時間で割増賃金を支払った時間は除きます。

Q3 1年単位の変形労働時間制中に途中入社、退職者が出ました。割増賃金の支払いが必要ですか?

使用者は、対象期間より短い期間に1年単位の変形労働時間制の適用を受けた労働者には、実労働時間を平均して週40時間を超えた場合、超えた部分について割増賃金を支払う必要があります。

Q4 1週間単位の変形労働時間制を採用しています。いつまでに労働時間を定めればいいですか?

遅くともその週が始まるまでに、各労働者に書面で通知しましょう。
急な労働時間の変更は労働者の生活に与える影響が大きいため、使用者は労働者と日ごろからコミュニケーションを取りトラブルに発展しないよう、信頼関係を築くことも大切です。


今回は1年単位の変形労働時間制と1週間単位の2種類の変形労働時間制を紹介しました。

変形労働時間制はで会社の実態にあわせ、労働時間を柔軟に設定できる制度です。

変形労働時間制には割増賃金の発生を抑える効果が期待できますが、

使用者は「労働時間を柔軟に設定できる制度」

という本質を忘れないことが大切です。

最終回の次回はフレックスタイム制を紹介します。


社労士の労働相談

従業員の採用から、入社・配置・育成・退職まで、1人ひとりの労務管理と
会社全体の就業環境や評価体制の整備まで

労働関係法令を根拠に、判断軸やトラブル時の対応方法をアドバイスします。

 


 採 用

□ 採用選考時の留意点
□ 採用内定者フォロー
□ 労働条件の決定方法
□ 労働条件の明示内容
□ 雇用契約の締結


 配置・育成

□ 勤怠管理の方法
□ 管理職の指導問題
□ 配転など人事発令
□ 昇給・昇格・降格
□ 懲戒処分の方法と流れ


 退 職

□ 従業員からの退職希望
□ 会社からの退職の要請
□ 競業避止義務の有効性
□ トラブルにならない解雇


 企業内規定の整備

□ 就業規則・諸規定の整備
□ 規則等の法規制対応診断

 


 組織再編の支援

□ IPO準備のための労務監査
□ 人事制度・労働条件の統一
□ 労働条件不利益変更の解決


 労務監査

□ 労働関係法令違反の調査
□ 労務状況改善・定期監査

 

従業員の採用から退職まで、日々の人事労務管理上の悩みや問題点から、人材育成や評価、人員配置等の人事管理の方法や課題、起こってしまった労働トラブルの対応方法など、人に関わる事柄について多岐に渡り相談できるのが、「社労士の労働相談」です。
従業員の勤怠管理や給与計算、社会保険や安全衛生等、日々の労務管理業務に加えて、人材育成や評価、人員配置等の人事管理業務を行うにあたり、判断に迷う時、トラブルに繋がってしまった時、法的根拠を基にしたアドバイスができるのが、労働関係法令の専門家である社労士になります。

「どんな相談ができるのか、詳しく知りたい」「費用はどれくらいか知りたい」など、気になる方は、「ご相談フォーム」より、お気軽にお問合せください。

iplus

「人・組織のコンサルティング会社」

社会保険労務士法人アイプラス

1.人事制度の設計
2.労務研修の企画と実施
3.労務管理・労務トラブルの相談

3つの人事コンサルティングサービスを軸として、人事労務に関する課題の解決をサポートしている会社です。

ご相談フォーム