休業手当

更新日アイコン2025年12月9日

休業手当の支払いは必要?

会社都合で休業を命じた場合、企業には休業手当の支払い義務があります。
とはいえ、「どんな休業が会社都合にあたるのか?」と迷う場面も多いのではないでしょうか。

今回は、休業手当の支払いが必要となる「使用者の責めに帰すべき休業」とは何か、そして休業手当の計算方法について、解説します。

休業手当とは

労働基準法第26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と規定されています。

一方、民法上の原則では「働かなければ賃金は発生しない(ノーワーク・ノーペイ)」とされています。つまり、労働者が労務を提供しなければ、使用者は賃金を支払う義務を負わないのが基本です。

しかし、使用者の責任によって労働者が働けない状況に置かれた場合、賃金が一切支払われないとなると、労働者の生活が困窮するおそれがあります。そこで、労働者保護の観点から、民法の特別法である労働基準法により、使用者の都合による休業時には、使用者に対して休業手当の支払いが義務付けられています。

「使用者の責に帰すべき事由による休業」に含まれるもの

労働基準法第26条における「使用者の責に帰すべき事由」には、使用者側に起因する経営上または管理上の障害も含まれると解釈されており、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広い範囲を対象としています。

基本的には、天災事変などの不可抗力に該当しない限り、「使用者の責に帰すべき事由」と判断される可能性が高いとされています。

たとえば、生産調整のための一時帰休、親会社の経営難により資材や資金の調達が困難となった場合の休業、監督官庁の勧告による操業停止なども、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとされています。

休業手当の計算方法

休業手当を支払う際には、平均賃金の100分の60以上の支払いが必要とされています。平均賃金の計算は以下の通りです。

  • 原則
    休業期間初日の直前の賃金締切日から遡る3か月の賃金の総額を総日数で除した額
    • 平均賃金=直前の3か月間の賃金の総額(総支給額)/直前3か月間の総日数(歴日数)
      ※「賃金の総額」とは、残業手当や住宅手当を含み、社会保険料や税金を控除する前の総支給額を言います。
      ※臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金等は除きます。

  • 最低保証(日給・時給・出来高給の場合)
    賃金の締切日から遡る3か月間の賃金の総額を、その期間中に労働した日数で除した額の60%
    • 最低保証額=直前3か月の賃金の総額(総支給額)/直前3か月間の労働日数×0.6

原則の額と最低保証額を比較し、高いほうが平均賃金になります。

1日のうちの一部を休業した場合にも、その日の賃金額が平均賃金の60%を下回る場合は、休業手当としてその差額の支払いが必要となります。

例)平均賃金10,000円、半日休業した日の賃金が5,000円の場合
  10,000×0.6=6,000
  ⇒実際の賃金が6,000円を下回っているので、差額の1,000円の休業手当の支払いが必要

こんなときどうする?

Q1 台風や大雪の影響で休業した場合、休業手当の支払いは必要ないですよね?

台風や大雪などの自然災害によって休業した場合、休業手当の支払いが必要かどうかは、その休業が不可抗力によるものかどうかによって判断されます。

たとえば、会社の事業場の施設や設備が直接的な被害を受けたために従業員を休業させる場合、取引先や道路・鉄道の被害により原材料の仕入れが困難となった場合、あるいは停電によって業務が行えない場合などは、不可抗力による休業と認められます。

一方で、不可抗力とは言えないケース、たとえば従業員の安全確保のために休業する場合や、接客業において客足の減少が予想されるために休業する場合には、会社の都合による休業とされ、休業手当の支払いが必要となります。

 

Q2 インフルエンザ等に罹った従業員に休業を命じる場合は?

季節性インフルエンザに罹患した従業員に対して、会社が出勤停止を命じることに法的な根拠はありません。
そのため、就業規則で就業禁止を定めていたとしても、会社の判断で休業させる場合は、会社都合の休業とみなされ、休業手当の支払いが必要となる可能性があります。

ただし、医師による「労務不能」の診断書がある場合や、明らかに労務に従事できない状態の場合は、本人の私傷病による欠勤扱いとなり、休業手当の支払い義務はありません。医師の診断がなくても、発熱や強い症状により労務不能と合理的に判断できる場合は、通常の病気欠勤と同様の扱いで問題ないと考えられます。

一方、感染症が流行している状況下で、発熱した従業員を「念のため」休業させる場合は、会社都合の休業とされる可能性が高く、休業手当の支払いが必要です。

また、法律により就業が禁止されている感染症(結核、新型インフルエンザ等)に罹患した場合は、法令に基づく就業禁止となるため、休業手当の支払い義務はありません。

感染症の疑いがある従業員や、感染症に罹患しても出社しようとする従業員は、評価の際に協調性の欠如をマイナスポイントとすることも一つの方法です。


会社都合による休業時に支払いが必要となる休業手当ですが、
一部休業の場合や、自然災害による休業、従業員が感染症に罹患した場合など、対応に迷うケースも少なくありません。

従業員の労務管理に関して判断に迷う場面では、労働法の専門家である社労士にご相談ください。


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