転職者の競業避止義務

更新日アイコン2025年 12月23日 

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クリスマス業を営む『ジャパンクリスマス株式会社』のサンタクロース黒須さんが採用募集をしたところ、ライバル企業の『日本サンタクロース株式会社』を退職したトナカイ中井さんが採用面接にやってきました。
即戦力として採用!、、、と思っていたのに前職の退職時に競業避止義務の誓約書にサインをしていたことが判明!採用しても大丈夫?

今回は、転職者の競業避止義務の有効性や同業他社から従業員を雇い入れる際の注意点を解説します。

競業避止義務とは

競業避止義務とは、使用者と競合する業務を行わない義務をいいます。似た概念として秘密保持義務がありますが、秘密保持義務は企業秘密を保持する(漏らさない)義務をいいます。

  • 労働契約中の競業避止義務(在職中)
    就業規則や労働契約上の特約の存否にかかわらず、信義則に基づいて労働者は競業避止義務を負うものと解されています。

  • 労働契約終了後の競業避止義務(退職後)
    原則として、競業避止義務契約が就業規則や宣誓書などで適法に成立していなければ、労働者は競業避止義務を負いません。適法に成立していたとしても、労働者には職業選択の自由があるため、競業避止義務は限定的に解されており、最終的には裁判所で個々の事案ごとに判断されます。

    尚、下記のような場合には、競業避止義務契約が成立していなくとも競業が不法行為とみなされることがあります。

    株式会社フリーラン・サドゥ事件

    競業行為が、雇用者の保有する営業秘密について不正競争防止法で規定している不正取得行為、 
     不正開示行為等(同法二条一項四号ないし九号参照)に該当する場合
     (社外秘の研究データを転職先で利用するなど)


    ②社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客等を奪取したとみられるような場合
     (社外秘の顧客リストを転職先で利用するなど)


    ③雇用者に損害を加える目的で一斉に退職し、会社の組織的活動等が機能しえなくなるようにした場合

     (社長とそりが合わなくなり、副社長が社員をすべて引き連れて同業態の新会社を設立するなど)

退職後の競業避止義務の有効性

競業避止義務契約が就業規則や宣誓書などで適法に成立していたとしても、退職後の競業避止義務が有効か否かは下記の基準により判断されています。

①守るべき企業の利益があるか
 守るべき利益については、不正競争防止法上の営業秘密のみならず営業秘密に準じるほどの価値を有する秘密情報も
 含まれます。

・不正競争防止法上の営業秘密
  企業や研究機関などが、営業活動や研究・開発から生み出した様々な情報を言います。
  例えば、実験データや失敗した実験データなども含まれます。

・不正競争防止法上の営業秘密に準じるほどの価値を有する秘密情報
  営業秘密に準じるほどの価値を有する営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウや
  使用者の相当な投資により獲得された顧客との取引関係や人間関係などがこれに当たります。
  例えば、使用者が雨の日も風の日も毎日欠かさず通って獲得した顧客などです。

②退職前の労働者の地位
(②以降は①を前提に、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から)
 形式的な職位ではなく、具体的な業務内容の重要性、特に使用者が守るべき利益との関わりが判断されています。
 合理的な理由なく特定の職位にあるものすべてを対象としているだけでは認められにくい傾向にあります。

③地域的な限定があるか 
 地理的な制限がないことのみをもって、競業避止義務契約の有効性が否定されている訳ではありませんが、
 使用者の事業内容や、職業選択の自由に対する制約の程度、特に禁止行為の範囲との関係により判断されています。

④競業避止義務の存続期間
 形式的に何年以内であれば認められるという訳ではなく、労働者の不利益の程度を考慮した上で、
 業種の特徴や企業の守るべき利益を保護する手段としての合理性等が判断されています。
 1年以内の期間については認められやすい傾向にあり、2年程度の期間は認められにくい傾向にあります。

⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
 一般的・抽象的に競業企業への転職を禁止するような規定が認められないことが多い一方、
 禁止対象となる活動内容や、従事する職種等が限定されている場合には認められやすい傾向にあります。

⑥競業禁止義務を課すことの対価として代償措置が講じられているか
 代償措置が設定されていた場合には、認められやすくなる一方、代償措置がないまたは不十分である場合には認められない傾向にあります。
 

同業他社の転職者を採用する際の留意点

同業他社の転職者を採用する際には主に下記2点に注意しましょう。

①競業避止義務が有効であるか確認する

下記のような就業規則の規定や誓約書がある場合には、競業避止義務を負っている可能性が高いため注意が必要です。また、転職者が前職でどのような地位・職種・職務内容を担っていたかを確認し、判断しましょう。

・競業避止義務期間が1年以内となっている。 
・禁止行為の範囲につき、業務内容や職種等によって限定している。 
・代償措置(高額な賃金など「みなし代償措置」といえるものを含む)が設定されている。


②採用時に誓約書等を取得する

転職者から競業避止義務がないことや、他社から第三者の秘密情報を含んだ媒体を持ち込まないことを記載した誓約書を取得しましょう。
競業避止義務の有無にかかわらず、同業他社からの転職者を採用する際には、秘密情報を取得しないよう注意する必要があります。
情報が不正な開示であることを知らなかったとしても、知らないことにつき「重大な過失」(取引上の注意義務の著しい違反)があると評価されるときには、
不正競争防止法上、その営業秘密を取得・使用したり、更に別の他社に開示したりする行為等が損害賠償請求や差止請求の対象となり得る場合があります。

こんな時どうする?

Q1 就業規則に競業避止義務を規定する際の注意点を教えてください。

就業規則に競業避止義務を規定する場合でも、誓約書等の個別契約が優先する旨を明記しておくことが大切です。

例)従業員は在職中及び退職後 6 ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。 

Q2 退職者へ競業避止義務を負わせたい場合、誓約書作成時の注意点を教えてください。

就業規則では、事業内全体を対象としているため抽象的な規定になりがちです。そのため、誓約書にて個別契約を締結することが重要です。有効性の高い誓約書にするため以下の点に注意しましょう。
 
・地域を限定する
・職種や職務内容を限定する
・競業避止義務期間を1年以内とする
・禁止行為の範囲を具体的に記載する

Q3 転職者に誓約書を提出させる際の注意点を教えてください。

転職者に前職での秘密情報を自社に持ち込ませないよう注意喚起をするとともに、不正競争防止法上の「重大な過失」がないと主張できる材料として誓約書を提出させることは有効です。誓約書作成時には下記の内容を盛り込むことをおすすめします。
例)
・第三者の秘密情報を含んだ媒体(データ、資料)を一切持ち出していない
・第三者が保有するあらゆる秘密情報を持ち込まない
・就業するにあたり不都合が生ずる競業避止義務がない
・業務に従事するにあたり、前職(直前の就業先以外も必要であれば盛り込む)の情報を用いない

Q4 転職者による営業秘密の持ち出し等を理由とした警告や訴えの提起等がなされた場合にはどうすればいいですか?

 転職者による営業秘密の持ち出し等を理由とした警告や訴えの提起等がなされた場合には、まず社内に持ち込まれた情報の内容や保有情報の確認を行いましょう。持ち込まれた情報次第では削除するとともに、同一の情報を保有していないかについても確認が必要です。また、作成・入手経路を記録に残すことも大切です。

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