社員の顔写真の利用範囲は?

更新日アイコン2026年08月10日

顔写真 個人情報 名刺

弊社では営業職が多く、お客様に顔を覚えてもらいたいため、顔写真付きの名刺にしてます。
しかし、一部従業員から「顔写真を名刺に載せたくない」「個人情報が多すぎる」と反対の声が出ています。
顔写真は個人情報だとは思いますが、どこまで保護しなければいけないのでしょうか?

顔写真にかかる権利

令和2年に個人情報保護法が改正されるなど、個人情報においては慎重な取り扱いが求められています。まずは、どのような情報が個人情報になるのか解説します。

顔写真は個人情報

「個人情報」とは、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報をいいます。
そのため、死亡した人の顔写真であれば個人情報には該当しません。

顔写真と肖像権

肖像権とは、自分の容貌をみだりに撮影・公表されない権利をいいます。
法律で明文化された権利ではありませんが、判例により確立されてきた権利です。

最高裁では以下の①~⑥の要素等を 「総合考慮」して、本人の「人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える」 場合に肖像権の侵害を認めました。
①被撮影者の社会的地位、②被撮影者の活動内容、③撮影の場所 ④撮影の目的、⑤撮影の態様、⑥撮影の必要性
容姿やプライバシーに対する感じ方は人それぞれ異なるため、懇親会の様子を撮影する際や写真を利用する際には、一声かけるなど肖像権にも注意をしましょう。

個人情報取り扱いのルール

個人情報は個人情報保護法で取り扱いについてのルールが定められています。
実務でよく使う基本的なルールを4つの場面に分けて整理します。

①個人情報を取得するとき

  • 個人情報を取得するときには、どのような目的で個人情報を利用するのか具体的に特定する 第17条)
    ば、「マーケティング活動のため」では足りず、「取得した閲覧履歴や購買履歴等の情報を分析し、趣味・嗜好に応じた新商品・サービスに関する広告のために利用するため」など、より具体的に記載することが望ましいとされています。

  • 取得した個人情報は、利用目的の範囲内で利用する(第17条の2)
    例えば、社員証の作成のために取得した顔写真を、採用ホームページに利用することはできません。
    ただし、本人の同意があれば当初の利用目的の範囲を超えて、利用することも可能です。

  • 取得している個人情報を、特定した利用目的の範囲外のことに利用する場合、あらかじめ本人の同意を取る(第18条)
    例えば、名刺用に取得した顔写真を、社内の労務管理システムに利用するときには、同意が必要です。

  • 人情報は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法で使用しない(第19条)
    例えば、違法薬物のおそれがある商品の広告に顧客情報を使う、情報管理がずさん、または違法な第三者提供を行うおそれがある外部業者に社員情報を渡すなどといった行為は、禁止されています。

  • 個人情報を取得したときには、利用目的を本人に通知する(21条)
    えば、アンケート取得時などで事前に利用目的を公表している場合を除いて、利用目的を本人に通知または公表しなければいけません。

②個人情報の管理するとき

  • 個人情報は正確かつ最新の内容に保ち、利用目的が達成されたら遅滞なく消去する(第22条・努力義務)
    例えば、従業員採用時に取得した書などを従業退職後も有しており、退職手続きのための合理的な期間が経過したときなどです。

  • 個人情報の漏えい等が生じないように、安全に管理するために必要な措置を講じる(第23条)
    例えば、紙で管理している情報は、鍵のかかるキャビネットに保管する、パソコンで保管している場合には、ファイルにパスワードを設定する等の措置が必要です。

  • 従業者や委託先においても、個人データの安全管理が図られるよう、必要かつ適切な監督を行う(第24条・第25条)
    例えば、お客様情報の記載されたアンケート用紙を公衆トイレや居酒屋に置き忘れた従業員に、十分に指導せず放置した結果、情報漏洩したなどはもってのほかです。

  • 漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合は、個人情報保護委員会に報告し、本人に通知する(第26条)
    例えば、従業員の健康診断等の結果を含む個人情報が漏洩した場合や、システム設定ミスで1,000人以上の個人情報が閲覧可能となっていた場合などです。

③個人情報を第三者に提供するとき

  • 個人情報を本人以外の第三者に提供するときは、原則として、あらかじめ本人の同意をとる(第27条)
    ただし、本人の同意を得なくても、例外的に個人データを第三者に提供できる場合もあります。
    例えば、親子兄弟会社、グループ会社の間で個人データを交換する場合でも本人の同意が必要です。例外的に本人の同意が必要のない場合とは、税務署や警察からの照会に応じる場合などです。

  • 外国にある第三者に提供する際には条件がある(第28条)
    ①本人の同意または②外国にある第三者が適切な態勢を整備しているまたは③外国にある第三者が個人情報保護委員会が認めた国又は地域に所在していることのいずれかに該当する必要があります。

  • 第三者に個人データを提供したとき、第三者から提供された時は確認と記録をする(第29条・第30条)
    提供した(された)場合は「いつ・誰の・どんな情報を・誰に(誰から)」提供した(された)かを確認・記録する必要があります。尚、記録の保存期間は原則3年です。

  • 保有している個人データについて本人がいつでも確認できる状態にしておく(第32条)
    次の事項について、本人が知りうる状態(公表・通知・解答)にしておく必要があります。

    • 個人情報取扱事業者の氏名又は名称、住所
    • 全ての保有個人データの利用目的
    • 保有個人データの利用目的の通知の求め又は開示などの請求手続
    • 保有個人データの安全管理のために講じた措置
    • 個人データの取扱いに関する苦情の申出先
  • 本人からの請求があった場合は、保有個人データの開示、訂正、利用停止などに対応する (第33条・第34条・第35条)
    この場合、第三者に個人データを提供した記録も開示請求の対象となります。また、保有個人データの開示方法について、電子データなどによる提供を含め、本人が請求した方法で対応する必要があります。
  • 個人情報の取扱いに対する苦情を受けたときは、適切かつ迅速に対処する (第40条・努力義務)

今回のケース

類似の裁判例

上記を踏まえると、顔写真を利用するときには、①利用目的を明確にして、②本人の同意をとることが重要です。とはいえ、どのような場合でも、肖像権や個人情報の保護が優先されるわけではありません。

例えば、類似の裁判例でゆうちょ銀行事件があります。
顔写真入り胸章の着用義務が肖像権の侵害や個人情報保護法に違反するのではないかが争われ、就業規則による顔写真入り胸章の着用義務は必要かつ合理的であるとして認められました。

また、胸章の着用義務違反として、就業規則に基づく訓戒・昇給延伸措置も裁量権の逸脱に該当しないと判断されました。
顔写真等の個人情報でも、業務の特性上必要で、合理的であれば、肖像権の侵害にあたらず、個人情報保護の観点からも違法ではないと判断される場合もあります。

今回のケース

顔写真付きの名刺にあてはめると、社外に配布することになるため、胸章と比べ、より慎重な取り扱いが求められます。
業種や職種によっても必要性や合理性は異なるため、会社ごとに判断が必要です。
例えば、下記のような場合には、合理性が認められやすいと考えます。

  • 営業職で「顔を覚えてもらうこと」が成果に直結する
  • コンサル・士業など「個人の信用」が商品となる職種
  • 企業文化として「顔を出すこと」が広く浸透している
  • 名刺の配布範囲が限定されている(会員制・クローズドな顧客)

実務上は就業規則に定めるほか、同意書を取得することが望ましいでしょう。
同意書で利用目的・範囲が明確なら、 名刺への顔写真掲載は業務命令として扱うことも可能と考えます。
また、
従わない場合は、指導 → 就業規則に基づく懲戒を行うことが可能な場合もあります。

必要性や合理性を説明しても、同意が得られない社員とは、プライバシーの感覚や容姿への抵抗感、過去のトラブルなど価値観にズレがある可能性があります。
どうしても同意を取得できない社員には、顔写真なしの名刺や顔写真のイラストの名刺にするなど代替え措置を用意することも一つの方法です。

こんなときどうする?

Q1. ホームページに顔写真を使用している社員が退職した場合、どうすればいいですか?

原則として同意を取得しており、利用目的の範囲内であれば引き続き使用することも可能です。

例えば、商品紹介ページで商品紹介という利用目的のため、お客様に商品説明をしている写真に顔が映っているような場合には、商品紹介という利用目的を逸脱していないため、そのまま使用することも可能であると考えます。

しかし、採用ページで人材紹介という利用目的のため、お客様に商品説明をしている写真に顔が映っているような場合には、退職してその人材が在籍していないのであれば、利用目的に反しているため、使用し続けることはできないと考えます。
一方、採用ページでも、あくまで仕事内容の紹介であれば退職後も使用することは可能と考えます。

とはいえ、退職後も自身の写真が使用されていることに不快感を持つ人は多いでしょう。
念のため、退職後も掲載することがある旨の同意書を使用時または退職時に取得することをお勧めします。
また、同意の撤回も視野に入れ、顔が映っている写真は、ぼかしを入れることや容易に写真の変更できる仕様としておくことも視野に入れましょう。

Q2.  顔写真利用同意書には、どんなことを記載すればよいですか?

顔写真は個人情報に該当し、利用目的や利用範囲において本人の同意が必要になります。
顔写真利用同意書には、下記の内容を含むようにしましょう。

1. 取得する情報
2. 利用目的
4. 第三者提供
5. 安全管理措置
6. 同意の任意性
7. 同意の撤回
8. 退職後の取り扱い
9.問い合わせ窓口
10.署名欄

一例となりますので、業種や経営理念・企業文化を踏まえて作成しましょう。
また、担当者が「なぜ弊社はこの利用範囲か?」を説明できるようにしておくことも社員の納得感を得るためには大切です。

顔写真の利用範囲ひとつとっても会社ごとに判断はそれぞれです。
自社としてなぜその利用範囲なのかを
経営理念や企業文化を踏まえて、従業員に浸透させていくことが重要です。

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