2025年2月25日
2024年5月に育児・介護休業法が改正され、2025年4月1日から段階的に施行されます。今回の改正では、対象となる労働者の範囲の拡大、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や、介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化が重要なポイントとなっています。
改正に伴い、就業規則等の見直しや個別周知・意向確認の体制整備など、検討すべき点が多くあります。
この記事では、事業主の義務とされるものについて、現行法と比較しながら概要を解説します。
今回の改正は、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、労働者を支援する措置を講じることが目的です。
大きく分けて以下の3点がポイントとなります。
①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
②育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
仕事と介護・育児を両立できるようにすることが目的のため、各種制度の対象となる労働者の範囲の拡大や、労働者への個別周知・意向確認などが盛り込まれています。
2025年4月1日施行
| 子の看護休暇の見直し | 義務 | 就業規則等の見直し |
| 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大 | 義務 | 就業規則等の見直し |
| 短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加 | 選択可 | 選択する場合は就業規則等の見直し |
| 育児のためのテレワーク導入 | 努力義務 | 導入する場合は就業規則等の見直し |
| 育児休業取得状況の公表義務適用拡大 | 義務 | |
| 介護休暇を取得できる労働者の要件緩和 | 義務 | 労使協定を締結している場合、就業規則等の見直し |
| 介護離職防止のための雇用環境整備 | 義務 | |
| 介護離職防止のための個別の周知・意向確認等 | 義務 | |
| 介護のためのテレワーク導入 | 努力義務 | 導入する場合は就業規則等の見直し |
2025年10月1日施行
| 柔軟な働き方を実現するための措置等 | 義務 | 就業規則等の見直し |
| 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮 | 義務 |
子の看護休暇
【現行法】
小学校就学前の子を養育する労働者は、事業主に申し出ることにより、1年度において5日(養育する小学校就学の始期に達するまでの子が2人以上の場合は10日)を限度として、子の看護休暇を取得することができます。
| 改正内容 |
| 名称変更 |
| 対象となる子の範囲 |
| 取得事由(③④を追加) |
| 労使協定による継続雇用期間6か月未満除外規定の廃止(②を撤廃) |
| 施行前 |
| 子の看護休暇 |
| 小学校就学の始期に達するまで |
|
①病気・けが ②予防接種・健康診断 |
|
<除外できる労働者> ①週の所定労働日数が2日以下 ②継続雇用期間6か月未満 |
| 施行後 |
| 子の看護等休暇 |
| 小学校3年生修了まで |
|
①病気・けが ②予防接種・健康診断 ③感染症に伴う学級閉鎖等 ④入園(入学)式、卒園式 |
|
<除外できる労働者> 週の所定労働日数が2日以下 |
【改正のポイント】
今回の改正により、対象となる子の範囲・取得事由が拡大され、名称も変更されるため、就業規則等の変更が必要です。
また、労使協定を締結することにより対象から除外できるとされていた、継続雇用期間6か月未満の労働者についても子の看護等休暇の取得対象となります。これにより、入社して間もない従業員であっても子の看護等休暇を取得できるようになります。
所定外労働の制限
【現行法】
事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはいけません。
| 改正内容 |
| 請求可能となる労働者の範囲 |
| 施行前 |
| 3歳未満の子を養育する労働者 |
| 施行後 |
| 小学校就学前の子を養育する労働者 |
【改正のポイント】
今回の改正により、請求可能となる労働者の範囲が拡大されるため、就業規則等の変更が必要です。現行法では対象外となっている、3歳以上小学校就学前の子を養育する従業員も残業免除の請求ができるようになります。
育児休業取得状況の公表義務適用拡大
【現行法】
常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられています。
| 改正内容 |
| 公表義務の対象となる企業の拡大 |
| 施行前 |
| 従業員数1,000人超の企業 |
| 施行後 |
| 従業員数300人超の企業 |
【改正のポイント】
今回の改正により、対象となる企業が拡大されます。今まで対象とならなかった、常時雇用する労働者が300人超の企業も公表の対象となるため、公表すべき事項の確認や公表の方法についての検討が必要です。
柔軟な働き方を実現するための措置等
育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、5つの選択して講ずべき措置の中から2つ以上の措置を選択して講じる必要があります。
| 事業主が選択して講ずべき措置 | 詳細 |
| 始業時刻等の変更 | フレックスタイム制、時差出勤の制度のいずれか(1日の所定労働時間を変更しないもの) |
| テレワーク等(10日以上/月) | 1日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるもの |
| 保育施設の設置運営等 | 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など) |
|
終業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(両立支援休暇)の付与(10日以上/年) |
1日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるもの |
| 短時間勤務制度 | 1日の所定労働時間を6時間とする措置を含むもの |
【改正のポイント】
今回の改正により、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置を講じることが、新たに事業主の義務とされました。上記の5つの措置の中から2つ以上を選択して導入し、労働者がそのうちの1つを選択して利用することができるようになる制度です。
選択した措置については就業規則等に記載し、後述する労働者への個別の周知・意向確認の際に周知する必要があります。
柔軟な働き方を実現するための措置の個別の周知・意向確認
3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期に、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置として選択した制度に関する事項の周知と、制度利用の意向の確認を個別に行わなければなりません。
利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。
| 周知時期 |
労働者の子の3歳の誕生日の1か月前までの1年間 (1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで) |
| 周知事項 |
①事業主が選択した措置(2つ以上)の内容 ②対象措置の申出先(例:人事部など) ③所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度 |
| 個別周知・意向確認の方法 |
①面談(オンラインも可) ②書面交付 ③FAX(労働者が希望した場合のみ) ④電子メール等(労働者が希望した場合のみ) |
【改正のポイント】
2022年の法改正により、妊娠・出産の申出をした労働者に対し、個別の周知と意向確認が義務付けられました。
今回の改正では、出産後に仕事と子育てを両立できるようにするための措置についても、個別の周知・意向確認を行うことが義務付けられています。
個別の意向確認については、家庭や仕事の状況が変化する場合があることを踏まえ、労働者が選択した措置が適切であるかを確認すること等を目的として、育児休業後の復帰時や対象措置の利用期間中などにも定期的に面談を行うことが望ましいとされています。
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
事業主は、労働者本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する事項について、労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。
| 聴取の時期 |
①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき ②労働者の子の3歳の誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで) |
| 聴取内容 |
①勤務時間帯(始業および終業の時刻) ②勤務地 ③両立支援制度等の利用期間 ④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等) |
| 意向聴取の方法 |
①面談(オンラインも可) ②書面交付 ③FAX(労働者が希望した場合のみ) ④電子メール等(労働者が希望した場合のみ) |
【改正のポイント】
妊娠出産時の想定と、その後の状況が異なることは少なくありません。そのため、出産後の状況を踏まえた意向聴取をすることで、仕事と育児の両立を容易にするための改正と考えられます。
上記の意向聴取は育児休業後の復帰時や、労働者から申し出があった際にも実施することが望ましいとされています。
また聴取した意向については、自社の状況に応じて、業務量の調整や労働条件の見直しなどの配慮をしなければならないとされています。
子に障害がある場合等で希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇などの利用可能期間を延長することや、ひとり親家庭の場合で希望するときは、子の看護等休暇などの日数に配慮することが望ましいとされています。
介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
【現行法】
要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者は、事業主に申し出ることにより、1年度において5日(介護、世話をする対象家族が2人以上の場合は10日)を限度として、介護休暇を取得することができます。
| 改正内容 |
| 労使協定による継続雇用期間6か月未満除外規定の廃止(②を撤廃) |
| 施行前 |
|
<除外できる労働者> ①週の所定労働日数が2日以下 ②継続雇用期間6か月未満 |
| 施行後 |
|
<除外できる労働者> 週の所定労働日数が2日以下 |
【改正のポイント】
今回の改正により、労使協定を締結することにより対象から除外できるとされていた、継続雇用期間6か月未満の労働者についても介護休暇の取得対象となります。これにより、入社して間もない従業員であっても介護休暇を取得できるようになります。
介護休暇を取得できる労働者の範囲が変更となるため、就業規則等の見直しが必要です。
介護離職防止のための雇用環境整備
介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
①介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
②介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
④自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
【改正のポイント】
今回の改正により、事業主は介護休業などに関する研修の実施や相談窓口の設置など、上記の4つの措置の中から選択して実施することが義務付けられます。
いずれかの措置を講じることが義務付けられますが、複数の措置を講じることが望ましいとされています。
介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認
介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を個別に行わなければなりません。
取得・利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。
| 周知事項 |
①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容) ②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など) ③介護休業給付金に関すること |
| 個別周知・意向確認の方法 |
①面談(オンラインも可) ②書面交付 ③FAX(労働者が希望した場合のみ) ④電子メール等(労働者が希望した場合のみ) |
【改正のポイント】
今回の改正により、介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、制度などの周知と個別の意向確認が義務付けられます。妊娠・出産を申し出た従業員に対する周知・意向確認とほぼ同じ内容となっています。
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供
労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主は介護休業制度等に関する事項について情報提供しなければなりません。
| 情報提供期間 |
①労働者が40歳になる誕生日前日の属する年度(1年間) ②労働者が40歳になる誕生日から1年間 のいずれか |
| 情報提供事項 |
①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容) ②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など) ③介護休業給付金に関すること |
| 情報提供の方法 |
①面談(オンラインも可) ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 |
【改正のポイント】
今回の改正により、実際に介護に直面する前の段階で労働者に情報提供を行うことが義務付けられます。労働者が40歳の誕生日を迎える前後で情報提供を行う必要があります。
情報提供にあたって、各制度の趣旨や目的を踏まえて行うこと、併せて介護保険制度について周知することが望ましいとされています。
今回の育児・介護休業の改正では、就業規則の見直しが必要な点がいくつかあります。
また、労働者へ各制度についての個別周知を行うことや、意向確認を行うことが事業主の義務とされるため、
現在実施しているものと似ている部分を洗い出し、周知や意向確認のための体制を作ることが業務の効率化につながります。
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