通勤中のケガ!これって労災?

更新日アイコン2025年 6月24日 

通勤中のケガ!これって労災?

業務上の災害によって生じた傷病や、通勤途中のケガが労災保険の補償対象となることは広く知られています。
しかし、マンションの敷地内でけがをした場合、帰宅時に寄り道をした場合、あるいは忘れ物を取りに会社へ引き返した場合など、これらが通勤災害に該当するかどうか、判断に迷うケースも少なくありません。
そこで今回は、通勤災害の給付要件を整理し、判断が難しい事例についてQ&A形式で解説します。

通勤災害の要件

1.労働者であること

正社員はもちろん、パートやアルバイトも含みます。

2.就業に関して行われる往復行為であること

通勤災害当日に就業する予定であったことか現実に出勤していたことが必要です。

3.次のいずれかを満たす移動行為であること

①自宅等の「住居」と会社、工場等の「就業場所」を始点または終点とする往復

    • 住居」とは、労働者が現実に居住し日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところを意味します。単身赴任先のアパートであっても住居となります。

    • 「就業の場所」とは、業務を開始し、または終了する場所をいいます。
      例えば、直行直帰の場合、自宅を出て最初の用務先が業務の開始場所で、帰宅前の最後の用務先が業務の終了場所となります。自宅から最初の用務先と最後の用務先から自宅までは通勤行為、用務先間の移動は業務行為です。

②厚生労働省で定める就業の場所からほかの就業の場所への移動

    • 複数の異なる事業場で就業する労働者が1つめの就業場所での勤務を終えた後2つめ就業場所へ向かう移動のことで掛け持ち勤務がこれにあたります。

③厚生労働省で定める②に掲げる往復に先行して、または後続する住居間の移動 

    • 単身赴任先の住居と帰省先の住居の間の移動のことを指し、就業日当日と前後に行われた移動が原則です。

4.「合理的な経路及び方法」により行われる往復行為であること

    • 「合理的な方法」とは、一般に労働者が用いるものと認められている方法をいいます。
      鉄道やバスなどの公共機関や、自家用車・自転車を用法に従って使用する場合は、平常用いているか否かにかかわらず合理的な方法と認められます。

5.移動行為において「合理的な経路の逸脱又は中断」がないこと

逸脱や中断後は、原則として通勤行為とは認められません。

ただし、通勤経路上でコンビニエンスストアで商品を購入する場合や、通勤経路付近の公衆トイレに立ち寄る場合などの些細な行為は逸脱や中断には含まれません。また、逸脱と中断には例外があります。

    • 「逸脱」とは通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれること(寄り道のイメージ)
    • 「中断」とは通勤の経路上で通勤と違う行為を行うこと(回り道のイメージ)

店舗限定商品購入のために、通勤経路から外れた駅に行く場合は「逸脱」、居酒屋に入って飲食をする場合は「逸脱」または「中断」とみなされる可能性があります。

6.「業務の性質を有する」移動行為でないこと

業務の性質を有する場合には通勤災害ではなく業務災害とされます。

逸脱と中断の例外(補足)

労働者災害補償保険法第7条3項では逸脱と中断の例外として日常生活上必要な行為であって、厚生労働省で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には逸脱と中断の間を除き、合理的な経路に復した後は通勤となると定めています。

~厚生労働省が定める逸脱と中断の例外~

  • 日用品の購入その他これに準ずる行為
    →惣菜やティッシュペーパーの購入をする、クリーニング店に立ち寄る、独身者や単身赴任者が食事のため食堂に立ち寄る(飲酒を伴う場合はNG)、理美容院に立ち寄る等

  • 職業能力開発促進法に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、学校教育法に規定する学校において行われる教育その他に準ずる教育訓練であり、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
    →「公共職業能力開発施設」とは、職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、 
    職業能力開発促進センター、障害者職業能力開発校
    「学校教育法に規定する学校」とは幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校

  • 選挙権の行使その他これに準ずる行為
    →準ずる行為とは住民の直接請求権の行使や最高裁判所裁判官の国民審査権の行使

  • 病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
    →準ずる行為とは施術所において、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける行為

  • 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)
    →ここでいう「継続的にまたは反復して」とは毎日あるいは1週間に数日など日常的に反復・継続して行われるもの

これって通勤災害になる?

Q1 出勤しようと自室を出たところ自宅マンションの廊下でケガをしました。自宅マンションの敷地内だから通勤と認められないですよね?

マンションの階段やエレベーター、廊下など、共用部の移動は通勤とされるため、このケースは通勤として認められる可能性が高いです。
マンションやアパートでは、自室のドアまでが通勤経路と解されていますが、一戸建ての場合は、庭を含めて敷地内とされるため、門扉を出てからが通勤となります。

 

Q2 会社から自宅へ帰る際に、要介護の姉の家に寄りました。姉の家を出た後にケガをしたのですが、通勤災害と認められますよね?

継続的にまたは反復して行われる姉の介護については、逸脱と中断の例外になるため通勤災害と認められる可能性が高いですが、ケガをした時点で通勤経路に復帰していたかが争点となります。

逸脱中または中断中の傷病は通勤災害にはあたりません。
例えば、会社と自宅の間に姉の住居がある場合に、姉の家を出てから普段の通勤経路に復帰する前にケガをした場合は、逸脱中とみなされます。
ケガの発生が、普段の通勤経路に復帰した後であれば、通勤災害とみなされます。

 

Q3 従業員が会合後に行われた飲酒を伴う懇親会からの帰宅中に車にはねられ死亡しました。通勤災害と認められませんよね?

通勤災害として認められた判例があります。

①下記の事情から会合自体が業務であると判断された

・会合への参加が勤務評価の対象とされていたこと
・参加する場合には勤務免除とされていたこと
・業務に関する話合いがなされていたこと

②下記の事情から懇親会前の業務と懇親会終了後の帰宅行為との間の関連性は失われていなと判断された

・軽食と少量のアルコールが出されたものの2,000円程度であったこと
・費用は会社負担であったこと
・約55分間にすぎなかったこと

 

Q4 社用携帯を忘れたので引き返したところケガをしました。通勤災害と認められますか?

通勤災害として認められる可能性が高いです。忘れ物を取りに戻る際には、忘れ物が就業に関するものかどうかが重要となります。
  • 業務上必要な打ち合わせや引き継ぎなどを忘れていたために職場へ引き返す行為及びその後の帰宅
  • 社用携帯等の就業する上で必要なものを置き忘れて住居または職場へ引き返す行為
  • 定期券や鍵などの通勤に必要なものを置き忘れて、住居または職場へ引き返す行為

    これらの忘れ物は就業との関連性が高いと判断されるでしょう。一方で、終業後に会う友人へのお土産等を忘れ引き返した場合には、就業との関連性が低く通勤として認められない可能性が高いと考えられます。

 

Q5 寝坊して急いでいたところ、ケガをしてしました。通勤災害と認められますか?

通常の出勤時刻と時間的にある程度前後があっても、就業との関連があるため通勤として認められる可能性が高いです。
混雑や遅刻を避けるために早く出勤する場合も同様です。

しかし、午後出勤にもかかわらず、サークルの朝練に参加するために早朝から会社に行く場合は、通勤として認められなかったケースもあります。

 


「どのような場合に労災が下りるか?」という疑問にお答えするため、
「通勤災害」の認定要件について解説しました。
従業員の権利意識がますます高まる中、SNS上の誤情報を信じるケースが増え、
人事担当者様の負担は一層大きくなっています。
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