退職代行サービスを利用した辞職への対応

更新日アイコン2025年3月11日

退職代行

近年、ニュースなどで退職代行サービスについて耳にすることが増えています。
退職代行サービスを利用して、従業員が退職するケースが増えている中で、会社としてはどのように対応すべきか頭を悩ませている方も少なくないでしょう。まだ具体的な事例がない場合でも、退職代行業者からの連絡があった際にどのように対応すれば良いのか、事前に知っておくことが大切です。
この記事では、退職手続きの原理原則とともに、退職代行業者から連絡があった場合に取るべき具体的な対応方法について解説します。

「会社を辞める」の種類

民法第627条で期間の定めのない雇用の解約の申し入れについて規定されています。

  • 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができる。
    この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。

民法の規定にもとづき、労使のどちらからでも、期間の定めのない雇用の解約を申し入れることができます。
「会社を辞める」は大きく3種類に分けることができます。

  合意退職 解雇 辞職
意味合い 労使で雇用契約の終了が
合意される
「使用者側」が一方的に
雇用契約を終了させる
「労働者側」が一方的に
雇用契約を終了させる
契約の終了 労使で合意した日

原則は30日前の解雇予告が必要

条件を満たせば即時解雇も可能

解約の申し入れ日から2週間

退職代行サービスを利用しての退職は労働者からの一方的なものなので、辞職に分類されますが、一般的には会社が退職手続きをとるため、合意退職となることが多いと考えられます。

退職手続きの原理原則

まずは退職手続きの原理原則を確認しましょう。

1.雇用契約の確認・退職日を確認する

  • 無期雇用か有期雇用かを確認します。無期雇用の場合は解約の申し入れから2週後に雇用契約を解除することができます。
  • 会社から雇用契約の解除について交渉することも可能です。即時の雇用契約の解除を提案することもでき、従業員が合意すれば雇用契約が終了となります。
  • 有期雇用の場合は原則として契約期間の途中で解除することはできません。労使の合意があって初めて解除することができます。

2.有給休暇の扱いを確認する

  • 有給休暇の取得は労働者の当然の権利ですが、労働者には会社の就業規則に沿って申請を行う義務もあります。有給休暇の取得については会社決めたルールに沿って申請するように指示をすることができます。
  • 労働者がルールを無視して有給休暇の取得を強行する場合は、服務命令違反として懲戒処分の対象となる可能性もあります。
  • 退職時に未消化の有給休暇について買い取りを求められる場合がありますが、会社として買い取る義務はありません。

3.退職日までの取扱いを検討する

  • 労働者には有給休暇取得の権利はありますが、同時に雇用契約にもとづいて指揮命令に従う義務も残っています。
    期限までに引継ぎをするように命令することは可能です。「引継ぎ完了」の定義を明確にすることも大切です。
  • 引継ぎを拒否する場合は、服務命令違反に問える可能性があります。

4.貸与物の返却・誓約書の提出を求める

  • 業務用のPCやスマートフォンなどは雇用契約にもとづいて貸与しています。
    回収ができない場合は、社内規程にもとづいて損害を請求することも可能です。
  • 入社時に、退職時に誓約書を提出する旨を約していた場合は、誓約書の提出を指示することができます。
    誓約書の提出を拒否する場合は、拒否する旨を明記して署名をもらいます。

原理原則をおさえた上で、退職代行サービスを利用した辞職について詳しく見ていきます。

退職代行サービスは3つに分けられる

退職代行サービスとは、従業員に代わって企業に退職の意思を伝えるサービスです。
退職代行サービスの運営主体には①弁護士・弁護士事務所、②退職代行ユニオン(労働組合)、③民間業者の3種類があり、どの形態でも労働者の退職の意思を伝えることはできますが、交渉に関してはそれぞれ対応できる範囲が異なるため、どのような立場で連絡をしているのかを確認する必要があります。

弁護士・弁護士事務所 労働者本人の代理人となり、退職の意思を伝達するだけではなく、有給休暇の取得交渉や未払いの残業代についての交渉、退職金の請求などの退職時の条件交渉を行うことができます。法的なトラブルとなった場合には依頼人を代理して争うことができます。
労働組合

団体交渉権を有しているため、本人に代わって条件交渉を行うことができます。法的なトラブルの代理人になることはできません。

民間業者

労働者本人の使者であるため、退職の意思を伝えたり、書類の受け渡しのみを行うことができます。交渉を行うと非弁行為となるため、あくまで伝えるだけとなります。

 

具体的な対応

従業員に退職代行サービスを利用された場合は、以下の点に注意しながら通常の退職手続きと同様に進めます。

  • 「代理」か「使者」かを確認し、本人からの委任状を提出してもらう
    • 退職代行業者から連絡があった場合、交渉できるかどうかの結論が異なるため、「代理人」か「使者」かを確認します。
    • 退職代行業者を名乗って勝手に従業員を退職させようとしている可能性もあるため、必ず委任状や従業員の本人確認書類の提示を求めます。
      従業員本人からの依頼であることが確認できない場合は、退職の手続きを進められない旨を伝えます。
    • 代行業者が「使者」だった場合
      退職の意思を伝達するだけなので、回答書を作成する旨を伝え送付先を確認します。
      以降の連絡については、本人とやり取りをする旨を伝え、承諾を得ます。

    • 代行業者が「代理」だった場合
      回答書を作成する旨を伝え、送付先を確認します。
      以降の連絡については、全て代理人と行うことになります。
  • 退職代行サービスを利用した理由を確認する
    • パワハラや強い引き留めがあったなど、退職代行サービスを使わざるを得ない事情が隠れている可能性があるため、業者を経由して本人に確認する・現場でのヒアリングを行うなど改めて社内の環境を確認する必要があります。今後同じことが起こらないよう、問題があれば改善に努めましょう。

一口に退職代行サービスと言っても、業者が持つ資格によって対応が異なります。まずは代行業者が持つ資格や本当に本人からの依頼なのかを確認しないと大きなトラブルにつながる可能性があります。
似たような例として、退職時に従業員の親が連絡をしてくるという話も耳にしますが、退職の意思を伝えるのが本人以外なら、基本的な対応は変わりません。「会社と雇用契約を結んでいるのは誰か」がキーワードになります。
退職の申出に対して、その場ですぐに返事をする必要もないため、対応を検討してから折り返しの連絡をすることも一つの方法です。


退職代行サービスを利用した辞職についての一般的な対処法を解説しました。

基本的には、通常の退職手続きと同様に進めれば問題はありませんが、従業員本人からの依頼であることを必ず確認することが大切です。

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