2025年 5月27日

採用面接の際には見抜けなかった経歴や病歴の詐称が発覚した場合、どのように対応すべきでしょうか。解雇や内定の取り消しは可能なのでしょうか。それとも、採用したからには辞めさせることはできないのでしょうか。
このページでは、どのような場合に経歴詐称を理由とした解雇が有効とされるのかを判例をもとに解説します。
民法第627条で期間の定めのない雇用の解約の申し入れについて規定されています。
民法の規定にもとづき、労使のどちらからでも、期間の定めのない雇用の解約を申し入れることができます。
| 合意退職 | 解雇 | 辞職 (自主退職) |
|
| 意味合い | 労使で雇用契約の終了が 合意される |
「使用者側」が一方的に 雇用契約を終了させる |
「労働者側」が一方的に 雇用契約を終了させる |
| 契約の終了 | 労使で合意した日 |
原則は30日前の解雇予告が必要 条件を満たせば即時解雇も可能 |
解約の申し入れ日から2週間 |
使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了を解雇といいますが、労働者の生活への影響が大きいため企業側がいつでも解雇できるというわけではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は労働者を辞めさせることはできません(労働契約法第16条)
経歴詐称や採用面接の際の虚偽回答が発覚した場合、入社前であれば内定取り消し、入社後であれば解雇によって対応することになります。経歴詐称が発覚した場合には、懲戒解雇で対応するのが一般的です。懲戒処分なので、そもそも就業規則に懲戒事由として定めておかなければ処分を行うことはできません。
また、経歴詐称が採用や企業秩序に影響を及ぼさない場合、その詐称による処分が無効となることもあります。すべての経歴詐称が解雇事由となるわけではなく、「重大な経歴詐称」でなければ懲戒解雇は認められません。
経歴詐称をするような従業員を信用して一緒に働くことは難しいと考えるのも当然ですが、解雇となると手続きが煩雑になってしまいます。そのため、退職勧奨による自主退職を促すことも検討しましょう。
重大な経歴詐称とは、真実の経歴が申告されていれば会社がその労働者と雇用契約を結ばなかったか、少なくとも同一条件での契約を締結しなかったと認められ、かつ、客観的に見てもそのように認められるのが相当な場合をいいます。
つまり、
①経歴詐称をせずに採用選考を受けた場合に、その労働者を採用することはなかった
②そのような事実があれば採用しないということに社会的な相当性がある(他の企業でも採用しなかったといえる)
上記の2つを満たす場合に「重大な経歴詐称」ということができます。
重大な経歴詐称として、学歴・職歴・犯罪歴の詐称などが考えられますが、これらが解雇事由に該当するかは採用時にその経歴をどの程度重視していたか、詐称の内容や本人の業務内容、入社後の状況等を考慮して判断されます。
学歴詐称
自動車教習所に指導員見習として雇用され、その後指導員として勤務していた従業員。
募集広告でも高卒以上の学歴を要件としていた。従業員は高校を中退したにも関わらず、高校卒業と履歴書に記載して採用された。
会社側は卒業証明書等の提出を求めず、学校への照会も行わずに見習として採用し、その後指導員としての職務に従事させたが、学歴詐称が発覚し懲戒解雇された。
職歴詐称
給排水工事について5年の経験があり、どのような仕事もできると申告して採用された従業員。
会社側はどのような仕事もできるという虚偽の申告を信用し、経験者として採用したものの、実際には簡単な仕事さえこなすことができずに解雇された。
犯罪歴の詐称
中卒者または高卒者を対象とした求人に応募し、採用された従業員。
従業員は、履歴書に高校卒業・賞罰なしと記載しており、採用面接の際に学歴に関しても質問されたが、大学を中退した事実を述べず、賞罰の有無に関しても賞罰なしと回答して採用された。
しかし、入社して数年後にこの従業員が公務執行妨害罪で逮捕、拘留され会社を欠勤した際に会社が調査をしたところ、採用面接の際に別の公務執行妨害罪などで起訴され、公判が係属中(保釈中)であり、後に執行猶予付きの懲役刑の判決がなされていることが判明し、懲戒解雇された。
Q1 中途採用の従業員が、前職をメンタル不調で退職したことが分かりました。解雇することはできますか?
現在問題なく仕事ができていれば、過去の病歴を理由にして解雇することは難しいものと考えられます。
経歴詐称をもとに解雇する場合、その内容や程度が重大なものである場合に限って有効とされます。
具体的には、トラックの運転の業務についている従業員が、てんかんの既往歴を隠していたという場合は解雇事由に該当する可能性があります。
Q2 大学を中退しているにも関わらず、履歴書には高卒と記載して採用された従業員がいます。学歴詐称で解雇することはできますか?
募集の際に学歴に関する制限がなく、面接時にも確認をしなかった場合、実際の業務に支障がなければ解雇は認められない可能性が高いです。
例えば、受験指導を行う塾の講師が学歴を偽っていた場合には、職務についての適格性及び資質を判断する上での重大な要素の一つとして認められ、解雇が有効になる可能性があります。
Q3 採用面接の際に既往歴を聞くことはできますか?
採用選考時に、業務に関連する既往歴を質問することは問題ありません。例えば、送迎業務がある職種の募集の際にてんかんなどの病歴、眠気が強く出るような薬を服薬していないかなどを確認することは、従業員の安全を守るためにも必要な事項となります。
直接業務に関わりのない既往歴について質問することは以下の3つの理由から、就職差別につながるおそれがあり、注意が必要です。
既往歴を質問する際には、職務内容を踏まえた必要性や合理性から本当に必要な質問であるかを慎重に検討し、応募者に対しても十分な説明が必要です。
「経歴詐称を理由に従業員を解雇することはできるのか?」という疑問にお答えするため、
解雇が有効とされた判例をもとに、どのような場合に解雇できるのかを解説しました。
経歴詐称が判明したら、どのような場合でも解雇することは可能と考えがちですが、
詐称された経歴をどの程度重視していたか、業務にどの程度の影響があるのかといった点を考慮して判断され、
全てが有効となるわけではありません。
解雇が無効と判断されると、従業員を復職させ、未払い賃金や慰謝料の支払いが必要となります。
「これはどうなの?」と従業員の問題でお困りの際には、労働法の専門家である社労士にご相談ください。
労働関係法令を根拠に、判断軸やトラブル時の対応方法をアドバイスします。
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労務監査
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