2024年11月11日

新卒採用で、内定者と連絡がとれなくなった…。
いわゆる「サイレント辞退」。
信頼に欠ける行動から、内定を取り消したいと思うのは当然のところと思います。
が、内定を出し、学生が承諾をした時点で「雇用契約」が成立していることとなります。
内定承諾され、「雇用契約」が成立した後に連絡がとれなくなった学生への、対応方法について解説します。
採用内定は、会社が学生(求職者)に雇用の意思表示をしたことに対して、学生(求職者)が入社を承諾した状態です。
「働く」とは、会社と労働者との間で雇用契約を結び、雇用契約に基づいた労働力の提供と賃金の供給がされることを言いますが、
新卒採用の場合、内定後から入社までの期間中、その身分は「学生」となり、雇用契約に基づく労働力の提供はなされていません。
労働基準法や労働契約法では、採用内定について規定は存在しないため、法的性質は個々の事案によって決まるものとなりますが、日本の新卒採用の採用過程は概ね決まっているため、その法的性質は、"「始期付」「解約権留保付」雇用契約”を結んでいることとなります。

「①採用募集」に対する「②学生応募」が、「学生による労働契約の申込み」となり、「④採用内定」の通知が、「会社による労働契約の承認」となります。これにより、入社日を待たずに、雇用契約が成立することとなります。
ただし、「始期」として、入社日が契約の効力発生時期もしくは就労時期とされ、会社側には特別の解約権が留保されている雇用契約となります。
この「始期付解約権留保付雇用契約」が成立するには、会社は、採用内定通知書の他に雇用契約締結に向けての意思表示をする予定がないこと、学生は、他社の就労機会(採用選考)を放棄していることが必要となります。
「始期付」とは
内定から実際入社して就労するまでに、一定の期間があることを言います。
採用内定の時点では、「雇用契約」ではなく、「始期付解約権留保付雇用契約」となり、学生が他社の内定を全て辞退していることが成立の要件となります。
「解約権留保付」とは
採用内定により成立した契約が、会社と学生の合意の上で、会社に解約権が留保されている状態のことを言います。
どこまで解約権留保が認められるかは、個別の判断となります。
判例では、「通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められる」ものの、「客観的合理的な理由があり、社会通念上相当と是認されるもの」とされています。
内定をだした学生と、連絡がとれなくなってしまった…。
人事担当者として、頭が痛くなる問題です。
せっかく採用活動を行い、多くの候補学生の中から入社していただきたい人材を見つけたのに、その学生と音信不通になってしまった時、落胆する気持ちはお察しします。
ですが、その先の人材戦略を推進するためにも、きちんと対応していくことが求められます。
内定を出し、学生が内定を承諾した時点で「始期付解約権留保付雇用契約」が成立していることとなります。
そのため、連絡がとれないからという理由で、会社側が勝手に内定取り消しをすることはできません。
学生に対しては、内定の辞退(=雇用契約を解消)するのか、入社の意思があるのか、確認が必要となりますが、確認するべき内容は、その状態によって異なります。
| 内定の状態 | 契約の状態 | 確認すること |
| 内々定の場合 | 「始期付解約権留保付雇用契約」 は未成立 |
「契約を締結するのか」 についての意思確認 |
| 内定の場合 (学生からの内定承諾前) |
「始期付解約権留保付雇用契約」 は未成立 |
「契約を締結するのか」 についての意思確認 |
| 内定の場合 (学生からの内定承諾後) |
「始期付解約権留保付雇用契約」 は成立 |
「契約を解除するのか」 についての意思確認 |
連絡がとれなくなってしまっていたとしても、雇用契約を締結若しくは継続するのか否か、学生の意思確認は必要になります。
連絡がとれないからといい、一方的な内定取り消しはトラブルの元となりかねませんので、会社が意思確認をしたという事実は必要になります。
学生には、「●月▲日までに連絡がない場合は、内定を辞退したものとみなします。」
などの連絡をします。
連絡が到達していたにも関わらず、学生から連絡が来なかった場合には、文面とおり、「内定辞退」として処理をしていきます。
◆ 「連絡の到達」 とは
「相手方の了知しうるようにその勢力(支配圏内)に入る」こととされています。
常識的に、情報にアクセスすることができる場所に送っておけば、学生が、「見ていない。聞いていない。」という言い訳も成立しないと解されます。
◆ 「常識的に、情報にアクセスすることができる場所」 とは
・就職活動のマイページ
・マイページ上で、学生本人が連絡先に指定しているメールアドレス
等があります。
上記のような場所に連絡をしていたら、「確認していなかった」という言い訳は、通用しないと考えられます。
採用内定により「始期付解約権留保付雇用契約」が成立すると認められた場合、内定の取り消しは、解雇(会社からの一方的な雇用契約解除)と同様となり、解雇権濫用法理の規制の対象となり、客観的合理的理由と社会通念上相当性が必要とされます。
採用内定取り消しの有効性は、「解約権留保」として、会社に与えられていた権利である、一定の事由が発生した場合にその雇用契約を解除する権利の行使の適法性を問われることとなります。
判例では、以下のような判断基準が示されています。
「採用内定当時知る事ができず、また知ることが期待できないような事実であって、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」
◆ 内定取り消しが認められた判例
・経営悪化等の事由で、内定者を配置することができない場合
・内定者の虚偽申告、非違行為があり、それが重大なもの
(従業員としての不適格性・不信犠牲を認められるに足るもの)
内定取り消しが認められるには、学校を卒業をできない場合、履歴書の記載に虚偽があった場合、会社の経営状態が悪化した場合等、内定時に予測できなかった重大な理由が必要となります。
会社には、「採用内定取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等、あらゆる手段を講じること」が求められます。
採用活動を行う会社として、内定の取り消しには厳しい要件が課せらることをきちんと理解し、採用面接時には、候補者の学歴や人相だけでなく、能力や適性、人格等を可能な限り見極めたうえで内定を出すようにしましょう。
採用内定者と連絡がとれなくなった時、としての対処法ですが、あくまで一般論となります。
個々のケースの状況により異なる部分はありますので、対応に迷った時は、社労士にご相談ください。
労働関係法令を根拠に、判断軸やトラブル時の対応方法をアドバイスします。
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採 用
□ 採用選考時の留意点
□ 採用内定者フォロー
□ 労働条件の決定方法
□ 労働条件の明示内容
□ 雇用契約の締結
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配置・育成
□ 勤怠管理の方法
□ 管理職の指導問題
□ 配転など人事発令
□ 昇給・昇格・降格
□ 懲戒処分の方法と流れ
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退 職
□ 従業員からの退職希望
□ 会社からの退職の要請
□ 競業避止義務の有効性
□ トラブルにならない解雇
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企業内規定の整備
□ 就業規則・諸規定の整備
□ 規則等の法規制対応診断
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組織再編の支援
□ IPO準備のための労務監査
□ 人事制度・労働条件の統一
□ 労働条件不利益変更の解決
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労務監査
□ 労働関係法令違反の調査
□ 労務状況改善・定期監査
従業員の採用から退職まで、日々の人事労務管理上の悩みや問題点から、人材育成や評価、人員配置等の人事管理の方法や課題、起こってしまった労働トラブルの対応方法など、人に関わる事柄について多岐に渡り相談できるのが、「社労士の労働相談」です。
従業員の勤怠管理や給与計算、社会保険や安全衛生等、日々の労務管理業務に加えて、人材育成や評価、人員配置等の人事管理業務を行うにあたり、判断に迷う時、トラブルに繋がってしまった時、法的根拠を基にしたアドバイスができるのが、労働関係法令の専門家である社労士になります。
「どんな相談ができるのか、詳しく知りたい」「費用はどれくらいか知りたい」など、気になる方は、「ご相談フォーム」より、お気軽にお問合せください。

「人・組織のコンサルティング会社」
社会保険労務士法人アイプラス
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