2024年12月10日

採用面接時には見極められなかった採用者の人間性や問題要素。
入社後に発覚した場合、試用期間満了で本採用拒否したいと思ってしまうこともあるかと思います。
試用期間とは言え、場合によっては解雇と同様になるため、当然に本採用拒否ができるわけではありません。
試用期間とはどのような扱いなのか、法的性質を含めて解説します。
試用期間とは新たに採用した従業員の勤務態度、仕事の適格性や人間性を評価して、本採用するか否かを会社が判断するために設けられた試験的な雇用期間のことをいいます。
「試用期間」の法的性質とは
試用期間について、労働関係法上では特段の定めがありません。
試用期間を設ける場合には、就業規則や雇用契約書に試用期間がある旨を明記すれば運用できます。
期間の長さについても法的な制限はなく、一般的には、入社日から3ヵ月~6ヵ月程度の期間を設定されることが多いです。
就業規則に定めがあること、また、採用時に試用期間があることが採用の条件であると告知することが必要で、告知がされなかった場合には、試用期間の無い雇用契約が成立したものとみなされます。
よく混同されがちなものとして労働基準法第21条の「試みの使用期間」があります。
これは、解雇予告手当を支払わなくてもいい期間のことで、解雇予告の適用除外の定めとなります。
【労働基準法第21条】「試みの使用期間」とは
従業員を解雇をする場合、30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
ただし、『試みの使用期間中の者』に該当する従業員については適用除外とされています。
労働基準法の『試みの使用期間』とは、いわゆる『試用期間』とは似て非なり、解雇予告手当を支払わなくてよい期間のことをいい、雇入れの日から14日を超えていない日となります。
試用期間とは、判例では「通常は本採用後と同一の労働契約であるものの、従業員の不適格性を理由とする特別の解約権が会社に与えられている(解約権留保付の労働契約) 」とされています。
法的に定めがないため、試用期間の法的性質や試用期間中の法律関係は、個々の事案による事実関係や当事者の意思表示の解釈によって決まります。
試用期間は、短期間の採用活動では個人の能力や適性を見極めることが難しいことから、長期就業の可否を見極める判断材料を得るための期間として設けられることが一般的です。
採用面接時には見抜けなかったことが原因で本採用を見送りたいとなった時、試用期間だから当然に「本採用しない」ことが認められるわけではありません。
「本採用をしない」とは、試用期間の雇用形態により扱いが異なります。
| 試用期間中の雇用契約 | 本採用拒否の取扱い | 本採用拒否取扱いの背景 |
| 無期雇用契約 | 解雇 | 入社直後から無期雇用契約を結び、その一部を試用期間として取り扱う場合は、「解約権留保付の雇用契約の締結」とされています。 解雇は通常の解雇よりも広い範囲で認められますが、当然に本採用拒否ができる訳ではありません。 |
| 有期雇用契約 | 雇止め | 入社後一定期間は有期の雇用契約とし、契約満了時に無期雇用契約が成立することとなります。試用期間の満了が契約期間満了となるため、雇止めは認められやすくなります。 契約としては、有期での契約更新はない前提の契約を締結することとなります。 |

試用期間が無期雇用契約の一部である場合には、「本採用をしない」ことは「解雇」と同様となります。
試用期間は採用決定時には見極めきれなかった能力や人間性等が適正か判断するための期間として設けられることから、留保された解約権は、通常の解雇よりは広範囲で認められるとされています。
ただし、当然に「本採用をしない」ができるわけではありません。
◆ 「本採用をしない」が認められる事由
①経歴詐称など、採用時には知り得なかった採否に関わる事実の発覚
②改善不能な程度の職務遂行能力の欠如
③病気やケガによる就業不能など
※採用決定時には知り得なかった事実(知ることが期待できなかった事実)が明らかになった場合でかつ、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当と認められた場合に、本採用拒否が認められることがあります。
◆ 「本採用をしない」時に、会社が実施するべきこと
| ①適切な指導、教育の実施 | 繰返し指導したにも関わらず改善されず、また、今後も改善が見込めない 場合、本採用拒否が有効と判断されやすくなります。 |
| ②退職勧奨の検討 | 一方的な本採用拒否はトラブルになるリスクがあります。 会社は指導の積み重ねと改善に向けた努力を尽くした、という事実が必要です。 |
| ③本採用拒否の予告 | 通常の解雇と同様の性質なため、解雇予告が必要になります。 雇入れから14日を超えない場合は「試みの使用期間」として解雇予告は不要です。 |
Q1 試用期間の長さは、どれくらいが適当なのでしょうか?
A1 試用期間の期間をどの程度の長さに設定するかは、法的制限はありません
実務上は、試用期間満了までに適正の判定と本採用拒否手続きの準備にあたり適当と考えられる長さを、労働協約・就業規則・労働契約上に定めます。
大多数の企業が試用期間を1~6ヵ月の範囲内で設定しているという調査結果もあり、あまりに長期に設定する場合には合理的理由が求められるため、注意が必要です。
Q2 入社後に、試用期間を延長しても問題ありませんか?
A2 就業規則等で期間延長の可能性とその事由、延長期間について規定があり、合理的理由があれば可能です
判例では、次のような時に、試用期間の延長が認められています。
・長期の休業等の事情が生じ、客観的にみても適格性判断ができなかった場合
・適格性を疑わせる事情があり、試用を延長して判断を慎重にする必要がある場合
・従業員として不適格な要素があるが、勤務態度が改まるのを期待した場合
・会社が円満退職を望み解雇を回避しようとした場合
延長が直ちに労働者に不利益とはいえず、相当の理由や正当事由のある限度で延長が認められています。
Q3 試用期間満了後の本採用時に、給与を下げることは契約違反になりますか?
A3 従業員の自由な意思による同意があれば可能です
試用期間中の雇用契約形態により扱いは異なります。
①試用期間中は、本採用とは別の雇用契約とする場合
(期間の定めがあり、労働条件も別途とする)
本採用と同時に新たに雇用契約を締結することとなりますので、新しい労働条件で明示し、同意を得て雇用契約を締結すれば問題ありません。
②試用期間中も、本採用時と同様の無期雇用契約とする場合
従業員の同意を得たうえで実施することは可能です。
賃金の低下は、従業員にとっては不利益な労働条件変更となるため、当然に許されるわけではありません。
・業務上、組織上の必要性
・能力や適性の欠如の有無とその度合い
・従業員が受ける不利益の程度
総合的に考慮して適当と認められなければ、賃金の低下は無効とされます。
採用面接時には見極めきれない能力や適性を見極めるために設けている試用期間ですが、
法的制限がないため、その運用は個社で定めることとなります。
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