パワハラの再発を防ぐには

更新日アイコン2024年8月26日

ハラスメント防止の方法

全従業員に対してハラスメント研修を実施し、相談窓口を設置するなど、ハラスメントに関してきちんと対策を行っていたが、ハラスメントが起こってしまった。
ハラスメント再発防止のためには、全体の対策の見直しと改善に取り組みことはことはもちろん、人事として、ハラスメントが起こる可能性を見極め、実態に沿った対策を実施してくことも重要です。

ハラスメントが原因のうつ病発症、会社としての対応

パワーハラスメントとは
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上、必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③就業環境を害すること(身体的または精神的な苦痛を与えること)
これら3つを全て満たすことで、客観的に見て、業務上必要な範囲で適正に行われる指示や指導はパワーハラスメントにはなりません。

上司の言動が原因でうつ病と認定された場合に、起こりうる問題とは

1.「ハラスメント」の定義に該当し、パワーハラスメントと認定される
改正労働施策総合推進法による、企業のハラスメント防止措置義務違反に該当することとなる。
これ自体に罰則はないが、指導や勧告に従わなかった場合には、是正働きかけの対象となり、企業名等が公表される。

 

2.被害者の労災認定
発病の要因が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合には、うつ病などの精神障害が労災として認定される可能性がある。

精神障害が労災認定される要件

①認定基準の対象となる精神障害かどうか
診断ガイドラインに基づき、医学的に判断される。

②業務による強い心理的負荷が認められるかどうか
発病前おおむね6カ月の間におきた業務による出来事について判断される。
認定基準の具体的出来事には「パワーハラスメント」の明示があり、上司等から身体的・精神的攻撃を受けた場合には、具体的事実に当てはめて心理的負荷の強度が判断される。

③業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病かどうか
個人の事情や家族の事情など、業務以外の出来事で強い心理的負荷があったかどうか、また、過去の精神障害既往歴やアルコール依存がある場合は、発病との関連有無等から判断される。

 

3.加害者・会社への法的責任

①安全配慮義務違反による債務不履行責任
会社は雇用する従業員に対して安全配慮義務を負う責任がある。
会社が、雇用する従業員への職場環境配慮義務を果たさなかったために、その従業員がパワーハラスメント被害にあってしまった場合には、安全配慮義務に違反すると認められる可能性がある。

②権利の濫用等による不法行為責任
指導監督や人事権行使は相当程度で裁量的判断に委ねられるが、裁量権は合理的な目的の範囲内で、法令や公序良俗に反しない程度で行使されるべきものである。必要な範囲を超えた行為は、業務命令権や人事権などの範囲の逸脱・濫用であると認められる可能性がある。

③使用者責任としての不法行為責任
パワーハラスメントの相談や報告があったにも関わらず、会社が適切な措置を講じなかった場合には、会社の不法行為責任が認められる可能性がある。このような不法行為に対しては、加害者の損害賠償請求に留まらず、会社にも損害の請求が生じる可能性がある。

会社として対応するべきこと

「パワーハラスメント対策」と「メンタルヘルス対策」の2つの観点で対策を検討していきます。

 

1.パワーハラスメントの再発防止対策

①実施しているハラスメント対策の見直しと検証
会社としてハラスメント対策を行ってきたのであれば、従業員にその理解が足りていなかったこととなるため、現在までに実施している取組みを検証して改善事項を洗い出し、新たな対策を検討する。
ハラスメント教育は一度実施したら終わるものではなく、継続して実施し続けることでハラスメントに関する理解を深め、発生及び再発防止に繋げる。

②発生事例の活用
同様の問題を発生させないために、発生した事例について情報を発信、注意喚起を行う。
どの様な背景でどの様な言動がとられたのか、周知することで他の従業員の気づきにつなげる。
ただし、当事者のプライバシーへは、最大限の配慮が必要となる。

③管理職登用の条件を見直す
上司から部下への指導や教育の際に起こるパワーハラスメントを防止するには、上司となる管理職がパワーハラスメントの理解と正しい指導や教育の方法を身につけておくことが重要となるため、部下とのコミュニケーションの取り方や、指導・育成の適正さ等を昇格の条件とし、管理職登用時には習得している状態をつくる。

④職場環境の改善
コミュニケーション不足や長時間労働の恒久化等、ハラスメントが起きてしまう要因が就業環境にある場合には、残業削減に向けた業務量や人員の調整、社内(部署内)コミュニケーションの改善に向けた取り組みを実施する。

 

2.メンタルヘルス対策の実施

①ストレスチェックの実施と結果の活用
・法的に実施対象外であっても実施し、従業員の心身の状態を把握する
・実施して終わりにせず、結果を基に、職場環境の改善に繋げる

②相談窓口の開設
・不調を感じた従業員自身が気軽に相談できる場を設ける

③教育研修の実施
・管理職にメンタルヘルスのケアの必要性の理解を深めさせる
・継続的に実施することでメンタルヘルスの知識のアップデートを図る

④職場環境の改善
・ストレスに直結する職場環境の見直し
 環境的側面:作業環境(空調や音、光、広さなど)
 労働的側面:労働時間や作業量、責任の重さ、職場組織、
・改善には、従業員の意見を取り入れる

⑤就業規則の整備
メンタルヘルス不調に対応した私傷病による休職制度に改定する

人事が知っておくべき、ハラスメント可能性のポイント

ハラスメント研修を実施していても、ハラスメントが起こってしまった。

ハラスメントについて知識があっても、自身の言動にハラスメント要素があることに気がつかない管理職もいます。
また、業務上の命令や指導とパワーハラスメントとの線引きに、悩む管理職の方も多いのではないでしょうか。
管理職には、職責に応じた権限による業務上必要な指導等を行わせなければなりません。
また、指導される側には、指導等の内容に不満を感じたとしても、適正な範囲で行われている命令や指導についてはパワーハラスメントに該当しないということを理解させなければなりません。
業務上の命令や指導を行う場合には、必要性や内容、量の適正さ、また、指導等のタイミングや場所、方法などが、状況に応じて適正かどうかに留意させる必要があり、人事としては、日々の従業員の振る舞いについてチェックしておき、ハラスメントの発生を事前に防ぐように努めることも必要です。

「パワハラ」が起こる原因は、「指導する側にある」だけではない

パワーハラスメントの定義にもあるように、客観的に見て、業務上必要な範囲で適正に行われる指示や指導はパワーハラスメントにはなりません。パワーハラスメントと適性な指示や指導は、行われる目的や求める結果が異なります。
パワーハラスメント防止を重視するあまり、指導される側である従業員の素行不良に気がついていないケースもあります。上司から適正な範囲で指導されたにも関わらず、指導の内容が意に反していたため「パワハラだ」と主張しているようなケースです。
パワーハラスメントを防ぐためには、管理職に限らず、指導される側である従業員を含め、1人ひとりがハラスメントについて正しい理解を持ち、適切な言動をとることが求められます。

1.「パワハラ」と「指導」の違い

  「パワハラ」   「指導」
目的 自分の思い通りにしたい
相手を従わせたい
相手の成長を促したい
接し方・態度 威圧的、攻撃的、否定的、批判的 肯定的、受容的、見守る、自然体
業務上の必要性 業務上の必要性がない、必要性があっても不適切な内容や量 業務上の必要性がある、、職場環境維持のために必要である
利益 自己利益、自分の気持ちや都合が優先で自分の欲を満たすため 相手のため、また、組織のため

 

2.指導される側 日々の言動は問題ない?

たまたま見かけた指導場面で、上司が感情的な叱責を行ってしまっていたとして、その場面だけで上司のパワーハラスメントと断定するには注意が必要です。恒常的に同様な指導が行われているか否かの確認とともに、指導されている従業員の言動に問題はないのかも、確認が必要です。指導される側の従業員の言動に問題があり、上司の感情的な叱責を招いていることもあります。もちろん、感情的な叱責自体は正すべき行為ですが、同時に、問題のある言動をとっている従業員側を正すことも必要になります。

ハラスメントになり得る言動について、正しく理解できているか

注意を受けるとすぐ「パワハラだ」と言っていないか。
パワーハラスメントは業務上の命令や指導を通じて起こることが多いため、パワーハラスメントに該当する言動とはどのようなものかを、具体例などを用いて理解させることが重要となる。

コミュニケーションは適切にとれているか

上司や先輩とコミュニケーションがとれているか。
ちょっとした疑問や悩みごとがあっても自発的に相談することができないと、周囲の上司や先輩は、相談がないため問題ないと思い必要以上の声掛け等をせず、本人は放置されたと思い込んでしまう。このようなコミュニケーション不全が起こっている場合、従業員には不満や不安、不平がたまっていき、不適切な言動に繋がる可能性がある。

上司や先輩から注意や指導を受けた時の言動は適切か

問題を指摘された時に、「でも」や「だって」などから話し始めていないか。
指摘した側には、言い訳で責任回避とも捉えられる可能性があるため、問題を指摘されたら、まずは忠告を素直に聞き入れてみることができているか。

報告や相談は適切にできているか

特に、問題が起きそうな場面で適切に報告や相談ができているか。
期限に間に合わない、顧客からお叱りを受けた、など、上司に相談することなく一人で抱えてしまったために、大きな問題となり、上司も打つ手がなくなる。その繰り返しにより、上司からの叱責に感情が入ってしまう結果となっていないか。

こんな管理職、いたら要注意! 職場環境チェックリスト

パワーハラスメントは業務上の指示や指導を通じて起こることが多いため、指示や指導を行う管理職が、パワーハラスメントになる言動にはどのようなものがあるのか、理解できているかどうかは重要です。パワーハラスメントへの理解が乏しいと、無自覚にパワーハラスメントを行ってしまう可能性があるためです。
本人に自覚を持たせることも重要ですが、管理職がパワーハラスメントの可能性のある言動をとっていないかを人事としてチェックし、パワーハラスメントの発生防止に努めることも重要です。

1.指導編

  管理職の言動 人事の手元情報
1時間以上連続で指導し続けていることがある 長時間の指導そのものはパワーハラスメントに該当しないこともあるが、不必要に長時間に渡る指導は、感情的な叱責となっている可能性がある。
手や資料で机を叩きつけながら指導していることがある 業務に関連する指導や注意であっても、内容や言動が威圧的な場合は、パワーハラスメントに発展する可能性がある。
部署内の大人数の前で、大声で指導をしていることがある 周囲に人がいる状況での注意や叱責に苦痛を感じる従業員もいる。単に指導のつもりでも、部下の人格を尊重させなければならない。
数日に渡り何度も資料の修正を命じている 部下は立場上、上司からの指摘に対して疑問を抱いても正面切って反論できないこともある。上司の指摘は、必要な範囲で具体的かつ的確に行われていなければならない。
他の管理職から「厳しい指導はほどほどに」などの指摘をうけている 状態を把握している周囲が注意を促している可能性がある。
その管理職がパワーハラスメントについて正しく理解できているか、無自覚にパワーハラスメントとなる言動をとっていないか、日々の言動を確認する。

 

2.コミュニケーション編

  管理職の言動 人事の手元情報
部下を「お前」と呼んでいることがある 親しみを込めた場合もあるが、部下を支配・服従させようとしている可能性もあり、パワーハラスメントに繋がる可能性がある。
「部下に意欲がない」と不満を漏らしている 部下の意欲や能力の問題ではなく、管理職の言動や指導方法に問題がある可能性がある。
トップダウンで部下が意見をすることは殆どない 「言っても無駄だから反論しない」「意見を言うとパワハラされる」など、部下が考えている可能性がある。
「昔は」「自分が新人の頃は」など度々部下に話している 過去に執着して、時代に沿った指導教育ができていない可能性がある。
特定の部下にだけ挨拶をしていない 自分の性格と合わない、気に入らない、等の理由から、人間関係からの切り離しを行おうとしている可能性がある。

 

3.業務編

  管理職の言動 人事の手元情報
納期間際でも部下に任せて先に帰宅する この行為自体はパワーハラスメントにはならない場合が多いが、適切な支援や教育もなく長時間労働を強いる行為は部下のメンタル不調を招く恐れもある。
「有給の取得や時間外手当の支給などの権利行使は義務を果たしてから」と明言している この考え方にも正しい側面はあるが、この認識化で働く部下には、有給取得をさせず、サービス残業を強いている可能性がある。
顧客の理不尽な要求に苦しむ部下に「勉強のため」といい、フォローしない 理不尽な要求の程度にもよるが、放置して何も対応しない場合はその行為自体がパワハラに該当する可能性がある。

 


ハラスメント研修を実施していたにも関わらず、パワハラが起こってしまった時は、発生してしまった背景や原因を洗い出し、日頃実施しているハラスメント対策の検証と改善に取り組むことが再発予防に繋がります。ハラスメント研修は、一度実施したらハラスメントがなくなるものではありません。継続的に実施し、1人ひとりがハラスメントに関して理解を深めていくことが重要となります。

人事として、指示や指導の際に主観的な言動をとってしまうことのある管理職や、上司と上手にコミュニケーションをとれていない従業員を把握し、ハラスメントが起こらないように事前に対策を進めることが重要です。ハラスメント発生リスクに対して常にアンテナを張っている状態をつくり、ハラスメントを防止することに組織的に取り組んでいくことが求められます。


ハラスメント研修

ハラスメント対策には、正しい理解と知識が必要です。
1人ひとりのリテラシーを向上させ
、ハラスメントの起こらない風土をつくります


ハラスメントが恐くて
管理職が指導できていない


ハラスメントと指導の違いが理解でき、正しい指導スキルが習得できる


人型アイコン-1 対象者
管理職、チームリーダー・主任
人事労務担当者

ハラスメント教育していても
ハラスメントがなくならない


ハラスメントの根本を解消し、ハラスメントの起こらない組織を目指す


人型アイコン-1 対象者
経営層、各支社・支店・
営業所のマネジメント・管理職

ハラスメント要素のある
人材のいない組織にしたい


今いるハラスメント要員への対応法と、今後発生させない手法がわかる


人型アイコン-1 対象者
経営層、各支社・支店・営業所のマネジメント・管理職、人事労務担当・責任者


「パワハラとは何か」を学んでいない場合、適切な指導を「パワハラだ」と騒ぎ立てる従業員に、対応できないことがあります。
いわゆる「ハラスメント・ハラスメント」、正しい指導や教育に対して「ハラスメントだ」と主張する嫌がらせ行為です。
この「ハラスメント・ハラスメント」により、本来指導するべき言動についても正しい指導ができていない現状があると、当人同士の問題のみならず、周囲の従業員のモチベーション低下や離職に繋がる恐れもあります。

改正労働施策総合推進法の施行により、ハラスメント対策は会社の義務となりました。
ハラスメント研修は、ハラスメント対策に効果的です。
ハラスメントとは何かを正しく理解し、ハラスメントにならない指導の方法を習得することで、起こってしまった問題に適切に対応でき、また、リスクを未然に防ぐことにも繋がります。

社内で発生したハラスメントを課題と感じている方、従業員教育で研修実施を検討している方、「詳細について詳しく知りたい」「費用はどれくらいか知りたい」など、気になる方は、「ご相談フォーム」より、お気軽にお問合せください。

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