2024年8月12日

従業員からハラスメントの相談を受けた時は、相談者の心情に寄り添いつつも事実を確認する必要があります。
相談者の相談内容を鵜呑みにしてハラスメントと断定することも、加害者とされる人物の評価等から相談者の思い違いと突き放すこともNGとなります。
社内でハラスメントの相談をされた時、人事としてどのような対応をするべきかを解説します。
2019年に施行された「改正労働施策総合推進法」で、パワーハラスメントの定義が明文化され、
事業主に対しては、パワーハラスメント防止処置を講じることが義務付けられました。
職場におけるパワーハラスメントの定義
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上、必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③就業環境を害すること(身体的または精神的な苦痛を与えること)
これら3つを全て満たすことを言います。
客観的にみて、業務上必要な範囲で行われる適正な指示や指導はパワーハラスメントにはなりません。
①優越的な関係とは
・職務上の地位が上に当たる人
・同僚であっても、知識や経験があり、協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難である人
・集団に属していて、抵抗や拒絶が困難である人
②業務上、必要かつ相当な範囲を超えた言動とは
・明らかに業務上必要性のない、相当でない言動
・業務の目的から大きく逸脱した言動
・業務遂行の手段として不適当な言動
・行為の回数、行為者の数などが社会通念上の許容範囲を超える言動
③就業環境を害することとは
・言動が理由で就労環境が不快となり、能力発揮に重大な悪影響が生じる
・判断には「平均的な労働者の感じ方」が基準となる
社会一般の労働者が同環境で同言動を受けた時に同様な状態となるか
パワーハラスメント防止のために、事業主には雇用管理上講ずべき処置があります。
1.事業主の方針の明確化及びその周知
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
4.併せて構ずべき措置
それぞれについて詳しく定めがあります。
1.事業主の方針の明確化及びその周知
①パワーハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
・就業規則や服務規律等を定めた文書に、事業主としての方針を規定する
・パワーハラスメントの内容や発生原因・背景等含め、規定とともに周知、啓発する
・社内報やパンフレット、ホームページ等に方針を記載、配布する
・研修や講習を実施する
・行動マニュアルを作成する
②行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
・就業規則等にパワーハラスメント行為者に対する懲戒規定を定めて周知、啓発する
・パワーハラスメントに該当する言動と処分の内容を決める
・どのような言動がどのような処分に該当するのかの判断要素を明文化する
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
①相談窓口を設置し、周知する
・対面のみならず、メール、電話など複数の方法で受けられるようにする
・相談内容、状況に即して適切な対応ができるフォロー体制を構築する
②相談窓口対応者の対応手順等を定める
・相談者が萎縮することなく相談できる対応法の教育
・必要に応じ、人事等との連携が図れるよう、フローの整備
・相談者へ伝えるべき留意点などをまとめたマニュアルの整備
3.職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
①事実関係の迅速かつ正確な確認
・相談者と行為者の双方に事実関係の確認
・相談者の心身の状況に配慮する
・双方の主張に不一致があった場合には、第三者へ事実確認を行う
②事実と認められた場合の、相談者への速やかな措置
・行為者との関係改善にむけた援助、引き離すための配置転換など
・メンタルヘルス不調への相談対応などへの処置
③事実と認められた場合の、行為者への措置
・就業規則等の定めに基づき、必要な措置を講じる
・相談者への謝罪など
④事実が認められなかった場合
・パワーハラスメント行為禁止の方針の周知
・従業員に対して、パワーハラスメントに関する意識啓発のための教育を実施する
4.併せて講ずべき措置
①プライバシーの保護
・相談者と行為者のプライバシーを保護するための措置
・プライバシー保護に必要なマニュアルを整備
・相談窓口担当者の教育
・プライバシー保護のために講じた措置について、社内に周知
②不利益な扱いの禁止
・相談やヒアリング対応をしたことによる不利益の禁止を規定し、周知、啓発する
事業主には、パワーハラスメントに関する雇用管理上の処置として、「事後の迅速かつ適切な対応」が求められています。
従業員より「パワハラされた」「パワハラのような言動を見た」などの相談が寄せられた場合には、その事案について、事実関係の迅速かつ正確な確認と、適切な対処を行う必要があります。
従業員よりパワーハラスメントの訴えがあった場合には、速やかに調査を開始することが重要です。
01
訴えた従業員へのヒアリング
どの様な行為をされたのかを確認する
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hを明確にして、細かく確認する。
ヒアリングの目的は事実を確認することであり、対象者の説得や屈服させるような言動は行ってはならない。
02
客観的な証拠を集める
メールなどの客観的な証拠があれば、提出を求める
証拠がない場合、訴えをした従業員へ内容を整理した書面提出を求めることも有効となる。パワハラの現場を目撃していた他の従業員がいれば、その従業員からもヒアリングを行う。
03
パワハラ加害者とされる
従業員へのヒアリング
訴えた従業員の主張だけを鵜呑みにしない
パワハラの加害者という決めつけをせず、淡々と事実を確認する。これまでの調査で集めた客観的資料をもとに、その証拠との結びつきを意識しながら発問する。
04
パワハラの有無を会社判断
1~3の客観的データを踏まえ、会社判断をする
対立する証言内容の信用性は、争いのない事実や客観的証拠、第三者の証言に矛盾点がないかに焦点をあてて検討する。
これまでの事例や自己の経験に基づき判断する場合には、その経験則の妥当性を慎重に確認する。
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ヒアリング時の告知事項・録音・録画の要否を確認する
調査を開始すると関係者へのヒアリングを行うこととなりますが、ヒアリング開始時に対象者へ諸事項を告知しておきます。
告知するべき内容
・ヒアリング実施者の立場
どの部門でどの職務なのか、また、今回のヒアリングとの関係などを簡潔に説明する。
・目的と対象者選定の理由
なぜ対象者にヒアリングを行うかの理由と、対象者がどのような立場でヒアリングされるかを伝える。
・不利益な取り扱いはない旨の説明
事実を話してもらうために、証言したことに対して不利益な扱いを受けることはないことを伝える。
ただし、意図的な虚偽発言には処分があり得る旨も併せて伝えるようにする。
・守秘義務と報復行為の禁止
ヒアリングを受けたことや内容については口外禁止であることを伝え、また、実名をもとにヒアリングする場合には、報復行為は禁止ということを明確にする。
ヒアリング内容の記録のために録音や録画をする場合は、その旨を明らかにすることも重要です。
後日に「勝手に録音された」と言われることを防ぐための予防処置となります。
録音や録画を行う場合は「録音していない時に威圧的な発言をされた」などのトラブルを防ぐためにも、ヒアリング開始から終了まででなく、対象者の入室から退室まで実施するようにします。
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先入観を持たない
調査にあたっては、先入観を持たないことが重要です。
「あの部長はパワハラするはずがない」「勤怠状況の悪いあの社員だから話を誇張しているかもしれない」など、勝手な憶測を持って調査をすると、事実の認定に錯誤がでる可能性があります。
心構えとして、「自分は先入観に引きずられているかもしれない」くらいの心もちでいる方が客観的に事実を受け止めることができます
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社内連携と対応手順を確認する
相談窓口や関係部署と連携し、対応の手順や調査期間中のパワーハラスメントの繰返しを防ぎます。
パワーハラスメントの調査・事実認定は重要ですが、最も重要なことは問題となっている言動が直ちに中止されることです。調査を行うことにより相談者が報復行為を受けることがないよう、ヒアリング時にハラスメント行為の禁止について伝える等、パワーハラスメントの疑いがある言動を行わないように警告します。
調査を進めていく上では関係部署や人事部等の協力を要する場合もあるため、相談者の同意を得るとともに、自社の制度上、情報を共有出来得る範囲の確認も必要となります。
パワーハラスメントの事実確認で重要となるのは、関係者へのヒアリングです。
問題となっている言動について、関係者の証言が一致しているのであれば、それほど問題はありませんが、関係者間における認識の違いや、証言の内容が異なる場合には、その証言の信用性を判断する必要が出てきます。
証言内容の信用性の判断
| 証言内容・証言者の状況 | 確認すること | 証言事例と注意するべきポイント |
| 当事者双方で 内容が同じ |
証言内容の1つ1つについて、一致してる部分としてない部分を明確にする。 |
被害者「感情的に平手打ちされた」 |
| 証言者に不利益な内容 | 客観的な証拠と証言内容の整合性・時系列・言動の動機などを確認する。 |
加害者「就業時間内に感情的な叱責をした」 |
| 客観的に明らかな事実とは異なる内容 | 客観的に確認可能な事実を基に、周囲の状況や言動前後の状況などを確認する。 | 被害者「会議室に拘束されて叱責された」 客観的事実「その日時は会議室が使用不可だった」 |
| 文書や証拠物と異なる内容 | 証言を裏付ける証拠の有無を確認する。 | 加害者「暴言はしていない」 証拠「メールで被害者に暴言について謝罪メールを送っていた」 |
| 第三者の証言と異なる内容 | 当事者との利害関係の有無や証言者の記憶の正否を確認する。 | 加害者「口頭で注意した」 第三者「暴力行為を見た」 |
| 理由なく、聞くたびに証言内容が変わる | 証言が変わった理由を確認し、証拠となる資料を集める | メモや領収書等の確認により、証言の間違いに気が付いたなど、合理的理由があればその証拠提出を求める |
| 証言内容が抽象的・仮説的で具体性がない | 具体的事実を引き出す質問をする | 核心的な話を避けるために抽象的な表現や仮定の話 をしている可能性がある |
| 証言者に、様々な事情から虚偽を述べる動機がある | 証言に至った経緯や動機を確認する 証言に基づく証拠や客観的事実の提出を求める |
動機があるだけですべての証言が虚偽とは限らない |
従業員からパワーハラスメントの相談を受けた際には、速やかな調査開始が求められます。
被害にあった従業員が「ただパワハラがなくなればいい」「調査や加害者への処罰はしてほしくない」など申し出る場合もあります。
ただし、法的に、事業主にはハラスメント防止処置を講じることが義務付けられているため、調査を実施し、事実確認を行うことは会社として必要となります。
被害にあった従業員には、調査の必要性を伝え、理解を求めるよう努める必要があります。
・原因の究明と再発防止のため、事実確認と再発防止策が必要
・今後加害者と接点を持つ可能性のある他の従業員への安全配慮義務履行
・会社が調査を実施しない場合、「会社はハラスメントを隠蔽する」と、事実を知る従業員に疑義を与える
このような事由から、ハラスメントの訴えが事実であるか否かの認定が必要となるため、調査は行わなければなりません。
調査をするにあたり、調査方法の必要性と概略、調査完了までの見込みスケジュールを説明し、理解を得るようにしましょう。
また、ハラスメントの調査はハラスメント行為者の処分にもつながるものであるため、公正かつ中立的に実施することはもちろん、プライバシー保護の観点から情報管理は徹底して行う必要があります。
情報の開示範囲や証言の裏付け等について関係部署と連携し、迅速かつ適切な対応が施せるように、社内規程やルールの整備をしておきましょう。

ハラスメントが恐くて
管理職が指導できていない
ハラスメントと指導の違いが理解でき、正しい指導スキルが習得できる
対象者
管理職、チームリーダー・主任
人事労務担当者

ハラスメント教育していても
ハラスメントがなくならない
ハラスメントの根本を解消し、ハラスメントの起こらない組織を目指す
対象者
経営層、各支社・支店・
営業所のマネジメント・管理職

ハラスメント要素のある
人材のいない組織にしたい
今いるハラスメント要員への対応法と、今後発生させない手法がわかる
対象者
経営層、各支社・支店・営業所のマネジメント・管理職、人事労務担当・責任者
「パワハラとは何か」を学んでいない場合、適切な指導を「パワハラだ」と騒ぎ立てる従業員に、対応できないことがあります。
いわゆる「ハラスメント・ハラスメント」、正しい指導や教育に対して「ハラスメントだ」と主張する嫌がらせ行為です。
この「ハラスメント・ハラスメント」により、本来指導するべき言動についても正しい指導ができていない現状があると、当人同士の問題のみならず、周囲の従業員のモチベーション低下や離職に繋がる恐れもあります。
改正労働施策総合推進法の施行により、ハラスメント対策は会社の義務となりました。
ハラスメント研修は、ハラスメント対策に効果的です。
ハラスメントとは何かを正しく理解し、ハラスメントにならない指導の方法を習得することで、起こってしまった問題に適切に対応でき、また、リスクを未然に防ぐことにも繋がります。
社内で発生したハラスメントを課題と感じている方、従業員教育で研修実施を検討している方、「詳細について詳しく知りたい」「費用はどれくらいか知りたい」など、気になる方は、「ご相談フォーム」より、お気軽にお問合せください。

「人・組織のコンサルティング会社」
社会保険労務士法人アイプラス
3つの人事コンサルティングサービスを軸として、人事労務に関する課題の解決をサポートしている会社です。
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