内定者からの就業規則閲覧希望

更新日アイコン2025年 11月25日 

内定者 就業規則

就業規則の取り扱いには慎重を期したいと考えられる方も多いのではないでしょうか。内定者からの就業規則閲覧希望には応じる義務があるかについて解説します。

内定者の地位と使用者の義務

内定者からの就業規則の閲覧を希望された場合には、内定者の法律上の地位と使用者の義務が争点になります。まずは、内定者の法律上の地位を確認してみましょう。

  • 大日本印刷事件(対象内定者:新卒内定者)

    ①採用内定通知のほかに、労働契約を締結するための特段の意思表示が予定されていなかった場合には、
    ②求人(申込みの誘引)に対し、内定者が応募したことは労働契約の申込みであり、
    採用内定通知が、労働契約の申し込みに対する使用者の承諾にあたり、始期付解約権留保付労働契約が成立している
    と判断されました。

  • インフォミックス事件(対象内定者:中途内定者)

    ①会社は内定者に対し、所属、職能資格等級、給与条件、入社希望日等を記載した採用条件提示書を送付し、
    ②内定者が会社の了解を得て、入社日を当初の日程から変更したうえで入社承諾書を送付したこと、
    ③会社は入社承諾書を受諾した旨伝えるとともに、「入社手続きのご案内」と題する書面を送付し、
    ④これ以外に労働契約締結のための手続等は予定しないこと等から、就労開始の始期の定めのある解約留保権付労働契約であると判断されました。

    これらの判例に照らし合わせると、
    ・採用内定通知以外に労働契約締結の意思表示が予定されていなかった場合
    ・採用内定通知以外に諸手続きや労働契約書の締結を予定しているが、所定の手続きが終了していた場合
    始期付解約権留保付労働契約が成立していると言えます。
    労働契約が成立しているため、労働者とみなせるでしょう。


    ※始期付解約権留保付労働契約とは、労働契約は成立しているが入社日まで労働の義務を負わない&内定取り消しの可能性がある状態です。

使用者の義務

次に使用者の義務を確認してみましょう。
就業規則は労働者に周知しなければいけないのでは?と考える方も多いのではないでしょうか。具体的に法律ではどのように定められ、解釈されているかを解説します。

  • 労働基準法第15条
    使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」

    採用内定通知の時点で、労働契約が成立しているとするならば、採用内定通知にて労働条件を明示しなくてはなりませんが就業規則の明示義務は定めていません。
  • 労働契約法第7条
    労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。」

    労働契約締結時に就業規則を定めて労働者に周知していた場合には、就業規則で規定した労働条件になることを定めたもので、就業規則の周知を定めたものではありません。ただし、労働条件を「就業規則による」等就業規則を適用する記載がある場合には、労働契約締結時に周知させていなければなりません。(「労働契約法の施行について」の一部改正について平成30年12月28日基発1228第17号)


  • 労働基準法第106条
    「使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(中略)に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

    就業規則等の周知方法と労働者への周知義務を定めたものと解釈できます。

就業規則の閲覧可否

上記から考えると、始期付解約権留保付労働契約が成立した内定者に、就業規則を閲覧させる義務があるとまでは言えませんが、適切ではないでしょう。

就業規則の取り扱いには慎重を期す場合には、下記のような閲覧方法の工夫をすることをおすすめします。また、就業規則を閲覧したい理由についても確認し、今後の行動を注視しておくことも大切です。

・会社のみで閲覧させる
・該当箇所のみ閲覧させる(賃金など数字部分は見せない、黒塗りするなど)
・自身でメモをすることは構わないが写真はNGなどの規制をする
・閲覧した内容を漏らさないよう誓約書に署名させる

前提として、通常は労働基準法第106条に則った周知をしていなければなりません。しかしながら内定者については、事業場へ立ち入れない、社内のシステムの利用ができないなどの理由から実質的に閲覧できない場合があるため、上記のような対応も可能と考えます。また、労働契約の始期が来ていないこと、双方労働契約の解約が可能なことから、必ずしも全文を見せる必要はないでしょう。

こんな時どうする?

Q1 就業規則に内定取り消し事由を記載しています。閲覧させた方がいいですか?

就業規則の内容を内定者に適用する場合には、労働契約締結時に周知する必要があります。そのため、就業規則に内定取り消し事由を記載している場合には、その部分だけでも内定者に閲覧させるべきでしょう。

Q2 内定の電話はしましたが、採用内定通知書などの書面は未送付です。労働条件通知書等も準備中ですが、就業規則の閲覧希望がありました。閲覧させた方がいいですか?

契約は口頭であっても互いが合意をすれば成立することが原則です。採用決定通知は必ずしも書面が必要なわけではありません。ただし、判例では、「採用内定通知以外に諸手続きや労働契約書の締結を予定していた場合には、所定の手続きが終了したときに始期付解約権留保付労働契約が成立する」と考えられています。採用時の慣習として、採用内定通所の送付等の手続きをしているのであれば、採用内定通知以外に労働契約締結を予定していた場合に分類できるため、労働契約締結の際に閲覧させればよいでしょう。


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